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突然降りかかってきた水に、反応が遅れて全身がびちょびちょに濡れてしまったのはつい数秒前の出来事。あぁ、さっき着替えたばかりなのになぁ、なんて考えながらクスクスと笑っている私に水をかけた張本人を睨みつけると、びくりと彼女の細い肩が跳ねた。報復が怖いなら、しなければいいのに。まぁ、報復なんてしないと分かっててやっているんだろうけど。

「あ、あんたがそこでボーっとしてたのが悪いんじゃない!」

文句あるの!?少し怯えたような顔でそんなことを言ってくる彼女をしばらく見つめて、ため息を漏らした。あぁ、面倒くさい。私は何も言ってないのに。というか、休憩時間なのだから邪魔にならなければどこでボーっとしていようと人の勝手だろうに。わざわざ私の所にまで来て嫌がらせを仕掛けたのはそっちだ。

「本当にあんた、気味が悪い」

丁寧にいつもの決まり台詞を吐いてくれる彼女にもう視線をやる気にもならない。とは言っても、この子からこの言葉をもらうのは初めてだったけど。昨日は誰だったかな、名前も思いだせない。

「病気でもないのに、紫色の瞳だなんて、きっと人間じゃないのよ」

病気だったら、そもそも訓練兵に志願することだって叶わないだろう。ただ珍しい色彩の目を持っているというだけで、こんなに毛嫌いされるものなのだろうか。いや、きっと理由はそれだけではない。というか、この状況は私が作り出したものだったか。

「せっかくの可愛い顔が台無しだね、人を貶している時のあなたの顔、醜いよ」

「な、なんですって!あなた、ジャンの幼馴染だとは思えないわ・・・!」

「幼馴染って言っても、そんなに仲が良かったわけでもないし」

「その幼馴染ってだけで、周りからあなたのことを聞かれるジャンの身にもなってみなさいよ!」

そんなの、知ったこっちゃない。別に知りたいことがあるなら私に聞けばいい話ではないか。まぁ、聞かれた所で素直に答える私じゃないけど。彼だって、私のことをそんなに知っているわけではないから困っているだろうに。私のことを聞かれて顔を顰めるジャンの顔が思い浮かぶ。質問の内容なんてどうせ下らないものばかりだろうけど。

「あんたなんか、兵士になれるわけないじゃない。開拓地にでも行ったらどう?」

2,3人だろうか。何かをボソボソと話しながら遠ざかっていく足音に、これから食堂にでも行くのだろうかとどうでもいい予想をした。そういえば、休憩の時間はもうすぐ終わりかな。確か次は座学だったかな。部屋に、教本を取りにいかなければ。どうせまたなにか悪戯されて、ボロボロなんだろうけれど。

重い腰を上げて、宿舎に向かって歩き出した。あぁ、ついでに替えのシャツに着替えなくちゃ。


世界は醜い。否、私が汚れたんだ。