05


兵団の共同墓地。ここには、訓練中に亡くなった兵士が眠っている。今回のトロスト区奪還作戦や掃討作戦で犠牲になってしまった兵士は、巨人に飲み込まれたもの以外、皆眠っている。もう、どこにマルコやなまえがいるのか分からない。


「ほら、人間じゃねーか」


あいつは化け物なんかじゃない。他の亡骸と同じように燃やされ、骨になって。年頃の女みたいに、誰かを好きになって。想いを伝えることすら許されず、最期まで後悔ばかりを残して。


「なぁなまえ。俺は、調査兵団に行く」


返事はない。けれど出来れば届いてほしいと。


「お前が望んでたのは、多分・・・普通の幸せなんだろう」


辛い訓練の中で、同じ訓練をこなした仲間と分かち合い、友人と下らない談笑をしたり。なまえが望んだのはきっと、普通に暮らしていれば手に入るようなものばかりだ。


「今となっては、分かんねぇよ。お前がどうして俺なんかを好きになったのか」


好きだと、正面から伝えられたことはなかった。けれど、全てを拒絶しているような表情の合間、目を泳がせたり、頬を赤らめさせたり。俺が相当な自意識過剰じゃなければ、それは・・・そういうことなんだろう。


「両想いだったのに、こんな最期ってねぇよな」


全部全部、俺が悪いと言ってしまえば楽になれる。認めてしまえば。だけどそれがたまらなく怖い。あいつの人生全てを背負うなんて、きっと俺は潰れてしまう。それほど重いものを、あいつはずっと、あんな華奢な体で背負い続けたんだ。


「いつの間にか、随分と時間が経ってたな」


俺がなまえを許すことの出来なかった、あの日から。いいや、許すだなんてどの口が言ってる。なまえは自分が悪いのだと嘆いていたけど、違う。だってあいつが何をしたって言うんだ。


「最初はお前の方が背、高かったのにな。いつの間にか、追い越しちまった」


お互いに成長しているはずなのに。歳が進むにつれて離れていく身長。それは時の流れを表していて。最後に見た、震えている小さな身体は間違いなく15歳の少女のものだった。


「俺もな、安全に生活できて、普通に暮らせればいいと、思ってたんだ」


なまえの言う普通と、俺の言う普通は、遠くかけ離れた場所にある。そんな俺とお前が出会って。初めて人を好きになって、好きな人間と一緒に居る時間がとてつもなく短く思えて。


「俺の思い上がりかもしれない。だけど、もし」


誰かに見られたらバカみたいだと、ガラに合ってないと、笑うだろう。だけどこれくらいさせてくれ。でないと俺、気が狂いそうなんだ。


「もし、俺と過ごした時間。1年にも満たなかったが・・・」


幼いながらも俺は確かに、幸せを感じていた。当たり前のようにそれが続くんだろうと、思っていた。


「それで少しでもなまえが、幸せだと・・・思ってくれたなら、」


自分がどうしてしまったのか分からない。分かるのは、女が信じるようなオカルトじみたことを、俺が望んでいるということだけ。きっとなまえが生きていたなら、こんなことを信じることもなかった。いつの間にか溢れていた涙を拭うこともせず、馬鹿みたいに青い空を見上げる。


「来世はきっと、お前を幸せにさせてくれ」


墓の前で膝をついてそう願う俺の姿をなまえが見たら、きっと笑うだろう。あの時みたいな、無邪気な笑顔で。どうか許されるなら、あの笑顔を向けてほしいと、次は共に生きていたいと。


ちっぽけで叶いそうにない願いが、今の全て