03



なまえを見る度に思いだす。たった一人で川のほとりに座って、草木の中に咲いている花を見つめる瞳に惹きこまれた。気付けば、いつも目で追っていた。


「なぁお前、いつもここにいるだろ」


後ろから声をかけると、ビクリと華奢な肩が跳ねて、ゆっくりと振り返った。少し怯えたような瞳が自分を見上げていた。随分と昔のことなのに、今も鮮明に覚えている。


「あの・・・うん」

「何でいつも一人なんだ?」

「何でって、えっと・・・。友達、いないから」

「友達?そんなの、俺がなってやるよ!」


座っている彼女に手を差し伸べた時、彼女の綺麗な瞳が輝いた。嬉しそうに頷いてその手を取って立ち上がる。目線は少しだけ彼女が上。白い肌が少しだけ赤く染まっていて、まるで絵本の中のお姫様のようだと、歯が浮くようなことを考えていた。


「お前の目、変わってるな」

「うん・・・。この目のせいで、皆から気持ち悪いって言われるの」

「気持ち悪い?俺は綺麗だと思うけどな」

「、あ、ありがとう・・・!」


そんなに気取ったことは言えなかったけど、あの頃の自分は感情に正直だった。同じように、素直に喜ぶなまえを見て心臓が跳ねた。子供ながら、一目ぼれだったと思う。そんな彼女の初めての友達だという事実に、酷く胸が高揚した。自慢したいとも、思った。


「なまえ、今日は俺の仲間に合わせてやる!」

「え、本当に?・・・でも、」

「大丈夫だって、友達が欲しいんだろ?」

「そ、そうだけど」


子供は正直だ。俺も、なまえも、他の仲間たちも。


「何だよコイツ、気持ちわりぃ!」

「母さんが言ってたぞ、こいつには近寄らない方がいいって!」

「一人で町のはずれに住んでるらしいぞ。きっと悪魔だ!」

「おい、待てよ!なまえはそんなんじゃねぇって、」

「ごめんなさい、」


知らなかったんだ。無知は罪だと、思い知らされたような気がした。なまえは、普通じゃない。泣いてる俺の傍でなまえはずっと謝り続けた。独りになった俺の傍で。そんな彼女の手を振り払って睨みつけた時のなまえは他の子供に罵声を浴びせられたときよりも傷ついた顔をしていた。


「触んなよ、化け物!もう、二度と俺に近づくな!」


なんて、身勝手な。最初に近づいたのは俺のくせに。俺まで仲間外れにされたんだ、お前のせいで。そんな無茶苦茶なことを言う俺に、彼女はそれでも謝り続けた。俺がそれに応えることはなかった。これで本当に独りになってしまったのは、俺じゃなく彼女だ。それを知ったのは、兵団に志願した後だった。


彼女は自ら茨の道へ進む