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紫色と目が合った。不思議な色で、そんな色の瞳を持つ人間なんてそうそういない。だけど俺は知ってる。この色を昔から知っている。その澄んだ瞳で、綺麗な花を見つめるんだ。あいつがどれだけ優しげな顔で、この街を見つめてきたのか知ってる。


「お前さ・・・その、1人で寂しくないのかよ」

「どうして?私には、ジャンっていうお友達がいるじゃない」


だから1人なんかじゃないんだと、彼女は笑った。可愛いと、素直に思った。光に反射してキラキラと光る瞳をずっと、見つめていたいと思ったくらい。”あの時”のなまえの目と”今”のなまえの目を重ねてみても、何一つ変わったことはない。


「ジャン、なんて顔をしてるんだよ・・・」

「あ?・・・あ、」


マルコに話しかけられたと同時に、なまえは目を逸らした。そそくさと、俺の視線から逃れるように片づけを始める。食堂を出ていくまで見届けると、それを見計らったようにマルコが肩を叩いた。


「酷い顔だったぞ、今。エレンと喧嘩でもしたのか?」

「別に・・・考え事だ」

「随分と深刻な考え事だね」

「・・・何が言いたいんだよ」


どこか、探るように俺のことを見据えるマルコをジロッと見やる。


「いい加減、意地を張るのをやめたら?」

「何の話だ」

「しらばっくれるなよ。彼女を見てたことくらい知ってる」


マルコが呆れたように頬杖をついて軽く息を吐く。その様を横目で見たまま、周りの声に耳を傾ける。女の声だ。当たり前のようになまえの悪口が吐き捨てられる。


「彼女のことが、気になるんだろ」

「・・・そんなんじゃねぇって」


少しだけ声を低くして言うと、マルコはそれ以上何かを言おうとはしなかった。ただ、水浸しになった跡のある教本を目の前に置いて、食堂を出て行った。


頼むから、嘘をつかせてくれ