企画部屋 | ナノ



いつも頼りになって、優しい彼が好きだ。成績もいいし、なにより強い。その上気配りもよく出来て、容量が良いとは言えない私の面倒を根気よく見てくれる。そんな彼のことを自然に好きになっていた。兄貴分的な意味ではなく、間違いなく恋愛の方。だから彼が私のことを好きだと言ってくれて嬉しかったし、もちろん返事はイエスと答えた。でも、正直付き合うってどうしたらいいのか分からない。手を繋ぐのも、・・・キスとか、したりするのも。


「ねぇライナー、いい天気だね」

「あぁ、そうだな」


さっきからどんな話を切り出したって、ライナーは辺り触りの無い、同時に面白さの欠片もない返事を繰り返している。それはまぁ、私が切り出す話だってそこから膨らませることが出来ないような、つまらないモノなんだけど。


「今日寝不足でさ、なんだか疲れちゃった」

「そうなのか・・・。今日ははやく寝るんだぞ」

「、分かってるよ。でね、その寝不足の理由がさ。ハンナたちの話に付き合ってたせいなの」

「こんなに訓練がきついのに、よくやるな」

「辛いからこそだって皆言うの。で、で、ハンナがね、フランツとこの間初めて、その、キスしたんだって」


もじもじと、自分でも違和感を覚えるような手振り身振りを加えながら話してみる。やはりそういう恋人らしいムードにするなら、そういう方向に会話を進めるべきだって皆が言ってたから。だから、先ほどから相槌しか打たない彼に、いつもはしないような会話を振ってみた。自分が女の子らしいとは思わないけど、やっぱりキスだとか、そういうのは男の方からやってもらいたいって気持ちがある。兵士といえど、その程度の憧れはあるんだもの。自分からするのが恥ずかしいと言うのも、あるけれど。


「そうだったのか。フランツも悩んでいたからな、よかったじゃないか」


顔に浮かべる笑みを崩さず、私の方を向かないライナーに、期待が一瞬にして崩れ去った。おかしいな、好きな人同士ならこういう話になったら、自然にそういう方向に行くって。おかしいなぁ。ガラガラと、私の中で何かが崩れる音がした。ライナーは、私とそういうことをしたくないんだ。そんな結果に至ってしまったのだ、私の中で。


「ライナー、私たちって付き合ってる意味ある?」


声色が明らかに変わったのがライナーにも分かったのだろう。ただ前を向いていたライナーの視線がこちらに向けられた。図星かな?


「ロゼッタ、お前何を」

「だってライナー、私といてもちっとも楽しそうじゃない」


呆然としていたり、私が黙れば同じように黙りこくり、何かを考え込んでいたり。その癖に訓練が終われば毎日手を引いてここに連れてきてくれる。それは何のため?一緒にいても楽しくないけど、付き合ってるから?無理しなくてもいいのに。そこまで面倒見てくれなくたっていい。


「最初は、一緒にいるだけで楽しかったよ。だけどね、ライナーが楽しそうじゃないことに気づいてから、なんだかそればっかり気になるようになっちゃって。最近は、ほら、手は繋いでくれるけど、キスとかはしてくれないじゃない。それってあの、つまり私のことは好きなんかじゃないんでしょう?」

「・・・好きだというのは手を繋いだりキスしたりという行動の上でしか共有できないのか?」


馬鹿らしいことを言うな。いつもの調子で軽く息を漏らした彼になんだか喉が熱くなった。馬鹿らしい、か。私がここ数日悩んでいたことは、バカらしいことだったのか。ライナーへの想いも、幻想も。


「じゃあ、こんな馬鹿らしい女とは別れてよ」

「・・・ロゼッタ?」


胸が張り裂けそうに痛い。目頭が熱い。声が上手く出ない。


「私は、馬鹿な女でしょ。ずっと、好きな人と、キスとか、抱きしめあったりしたいって、ずっと。ずっとだよ?付き合う前から、ずっと思ってた」


私だって、こういう行為でしか分かち合えないとは思ってない。だからこそ想いが通じ合った時は嬉しかったし、こうして話しかできなくても幸せだった。だけどさ、ハンナや他の子の幸せそうな顔見ると、ほら、どんな気持ちになるかくらい、知りたいじゃない。下らない動機だとは思うけど。


「ライナーがそんな時、どんな顔するのかなーとか。恥ずかしいけど私、いつも考えてた。もっと何か、楽しいお話してくれたり、もっと笑ってくれたり、時には一緒に泣いたりとかさ。付き合うって、そういうものだと思ってた。バカらしい。本当に私ってバカだね。そんな期待しちゃったりして・・・さ、」


目尻からこぼれ落ちる雫が容赦なく世界を滲ませる。ライナーも私に愛想尽きてしまうんだろう。今までの関係にだって、もう戻れない。冷たくなった雫を拭おうとしたとき、暖かい腕が背中に回った。今まで一度だって抱きしめてくれたことはなかったけど、それでも分かる。これはライナーの腕だ。


「すまない、ロゼッタ、違うんだ。バカなのは俺だ。俺は大馬鹿だ」


どういう意味?籠った声でそう聞くと、ライナーは腕の力を少しだけ強めた。


「俺はその、キスとかしたりして、お前に嫌われないかなって・・・」

「・・・は?」


視界はライナーの肩で埋まっているから見えないけれど、きっと彼の顔は真っ赤だ。なんとなくだけど、そんな顔をしてると思う。


「本当はお前と、キスしたり・・・とか。ずっと考えてた。どうやったら出来るのか、とか。お前といると、そういうことばっかり考えちまって。そのせいでお前がこんなに悩んでたなんて知らなかった。ごめん、ごめんな」

「・・・、バカ、だなぁ。ライナーは」


ほんとに馬鹿だ。だけどライナーの頭の中も私でいっぱいだった。私の話を聞き流していたりしたのはやっぱりムカつくけど、だけど、キスしたときのライナーの表情を見れたから、許そう。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -