「ねぇ、今夜もあの場所に来てくれる?」
訓練も終わりに差し掛かっていた時、片付けに入っていた私の所にやってきたアルミンがコソッと耳打ちをした。もちろんだよ。そう答えればアルミンは優しくはにかんだ。
「あらロゼッタ。もう食べたの?」
「うん。先に片づけるね」
「いいけど・・・もしかしてアルミンとの約束?」
「そうだよ」
「いいなぁ、幸せそうで。いってらっしゃい」
ひらひらと手を振る友人に苦笑いをこぼして席を立った。幸せ。確かに私は幸せだと思う。好きな人と2人きりで過ごすのは、誰しもが憧れることだろう。特にここでは、好きなときに好きな人と過ごすということは出来ないから。いつものように通っている奥の方の部屋。普段倉庫代わりのこの場所は、夜に限って私とアルミンの落ち合い場所になる。古い木の扉を開けば、窓の近くの木箱に腰をかけているアルミンと目が合った。この薄暗い部屋でもよく見える彼の瞳はいつみても美しい。
「遅かったね」
「そうかな。結構急いできたんだけど」
「そっか」
こちらから目を離そうとしないアルミンの元にゆっくりと近づく。床がギッギッと鈍い音を立て軋むのが耳障りだ。
「ロゼッタがもっと早く来てくれれば、もっと一緒にいられるのに」
「・・・ごめんなさい。だけどアルミン、夕飯は?」
「僕?僕はパンだけ部屋に持ち帰ってるよ」
ロゼッタともっと一緒にいたいから。恐ろしく綺麗な青い瞳が私を映す。綺麗なだけじゃない。どこか暗さが入り混じっている。純粋な色とはまた違った美しさ。何もかもを見透かしてしまいそうなその瞳に、ゾクリと鳥肌が立った。
「でも、食事は食堂でとらなきゃ。規則、だしさ」
アルミンは上位組程技術があるわけではないけど、技巧術や座学に関しては教官にもよく褒められていた。私自身も、彼の真面目さにはずっと尊敬していた。そんな彼が平気で規則を破るなんて。
「そうだね、規則だね。でも」
いつの間にか立ち上がっていたアルミンの手が首に触れた。その手が冷たくて驚いて、身を引こうとする前に勢いよく引き寄せられる。
「ロゼッタに合えなくなるくらいなら、規則なんてどうでもいい」
私の為なら規則なんていらない。そんなことを言うアルミンに、喜ぶべきなのか残念に思うべきなのか。私だって彼と一緒にいたい。気持ちは同じ。同じはずなのに、何が違うんだろう。
「それとも、ロゼッタはいや?僕と会うことよりも大切なことがあるの?」
「そ、んなこと。だけど、私は」
「あるはずないよね。だって僕たちはこうやって愛し合ってる。これからもずっと」
いつもより低い彼の声に、喉が震えた。温かい吐息が耳に掛かるたびに、私の肩は小さく跳ねあがる。違う、違うよこんなの。確かに私はアルミンを愛してる。だけど。
「ロゼッタ、君は僕と一緒にいてくれるだろ?ずっと」
「アルミン、アル、」
「僕より大切な物なんて許さない。君の一番は全部、僕のものだろ」
アルミンと何か別のものを選ばなければならないとき、私は一体どうするのだろうか。アルミンはきっといつでも私の傍にいてくれる。だけど私は?アルミンと私の違いはどこからどう見ても明らかで。頭のいい彼ならそれに気づいてるはずだ。怖いんだ。アルミンは。いつか私が離れていくかもしれないって。恐ろしいほどに私を縛り付けるアルミンが怖い。私の為に自分を打ち壊していくアルミンが。だけど離れられないのは何故?白い頬に手を寄せたら、安心したように笑う君が好きだから。
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