企画部屋 | ナノ



最近ここぞとばかりに訓練を詰められヘトヘトになった頃、休暇が挟まれるらしいという話を聞いたのが2日前の話。久しぶりの休暇で随分とはしゃいでる様子のロゼッタが俺の元にやってきたのは昨日の話。ご丁寧に街で買う物リストまで持って。「誰と行くんだ?」そう問いかけてみると、ロゼッタは不思議そうな顔でこちらを見上げて言った。

「ジャンと行くに決まってるじゃない」




■ ■ ■ ■



「あら、ロゼッタ。お買いもの?」

いつもの数倍テンション高めのロゼッタに俺が着いていけるはずもない。少し前の方で俺の腕を引っ張りながら人ゴミをかき分けるロゼッタはどうしてそんな元気があるのか。体力はこっちの方があるはずなんだけどな。本来男がすべき役割をロゼッタが担っているのを見るとちょっとばかし笑いたくなる。だがここで笑ったらロゼッタは間違いなく機嫌を悪くするだろう。少し視線を下げてニヤける口元を抑えていたら、前方にいたロゼッタが「あ」と声を漏らした。つられて視線を辿ってみればロゼッタと同じ色の髪が見えた。別に珍しい色ではないが、あの後姿には見覚えがある。

「お姉ちゃんの方こそ」
「あ、こんにちは」

あら、ジャンも一緒なのね。嬉しそうに微笑むロゼッタの姉であるペトラさん。ペトラさんとは割と何度も街で遭遇したことがあるのでそれなりの顔なじみだと思う。だがなんだ、この隣の男は。服装を見る限り調査兵団らしい。兵団服、となるとデートではなく純粋な買い出しらしい。どこか漂う違和感に首をかしげながらも、一応先輩ということは間違いないので挨拶をする。

「よう、ガキ共。初めて会うな・・・。俺は調査兵団のお前らの先輩、オルオ・ボザドだ。まぁなんだ、肩の力を抜け。緊張すると言うのは分かるが・・・」
「私はただ兵団の買い出しに来ただけよ。2人はデートでしょう?」
「うん。久しぶりの休暇なんだよー」

楽しそうに姉妹で会話を交わす後ろ、オルオさんと目が合い、会釈をした。台詞から読み取るに、ペトラさんから受けている扱いはこれがデフォルトらしい。俺と目が合い標的を完全に移したと思われるオルオさんがこちらに近づき勢いよく肩を組まれる。何なんだよ、これ。どうにかしてくれペトラさんかロゼッタ。助けを求めて2人を見ても、2人は周りに花が咲きそうな程楽しそうに談笑している。それでも止まらない2人に、俺はオルオさんを半分引きずる形で後を追う。ほんとなにこれ。

「あ、これも可愛いなぁ・・・けど、高い・・・」
「そのくらい私が出すわよ」
「いや、いいの。今日は買う物決まってるし。今度にする」

街に来るたびに行きつけている雑貨店。女の子らしい雑貨が並ぶこの店を、まさか男2人肩を組んで入店するはめになるとは誰が思うことか。隣でぶつぶつとオルオさんが討伐数を呟いてる間に、ペトラさんとロゼッタが店を出て行こうと扉に手を掛けた。おい、まさか俺まで置いていく気じゃねぇだろうな。

「うわぁ、」
「おい、ロゼッタ!」

急いで後を追って外に出てみると、時間が時間だったらしい。結構なひとだかりが雑貨屋に押し寄せてきた。なんてタイミングの悪い。咄嗟にロゼッタの手を掴むと、向こうからも握られたのを確認してから引き寄せる。そのまま横へと移動して息を吐いた。ペトラさんたちとははぐれちまったが、まぁ仕方ないだろう。

「・・・ん?あ、れ・・・」
「・・・あ」

互いの視線が交差した。それは俺が予想していた顔と似てはいたけど、別人。ロゼッタじゃない。

「ペトラ・・・さん」
「ジャン・・・」

ため息を吐いたのは、同時だったと思う。ついでに頭を押さえるのも。ペトラさんとは割と気が合うかもしれない。

「その・・・すみません」
「いや、私も間違えたもの。おあいこね」
「あの2人、どうしましょうか」
「まぁ、向こうにはオルオもいるし大丈夫でしょ。あれでも一応年上だし。ここに居ても仕方ないから、2人が来たらすぐ分かるように街の入口にでも向かいましょうか」

ペトラさんの意見に賛同し、先ほどより人の多くなった通りを歩きだした。隣を歩く恋人の姉をチラリと見る。背の低さと言い、顔立ちといい。ロゼッタによく似てはいるが、落ち着いた足取りにやはりアイツの姉なんだと実感する。あと数年すればロゼッタもこうなるんだろうか。

「ねぇ、ジャン」
「・・・え、あ、はい」

そんなことを考えながらペトラさんの横顔をジッと見ていたから、突然こちらを向いて声を掛けてきたペトラさんに上手く反応できなかった。しかし彼女は全く気に留めていないようで、本題を持ち出した。

「最近ロゼッタとはどう?仲良くやってる?」
「まぁ、そうですね。忙しいのはありますが、普通にやっていけてると思います」

一緒に食事をとるのも稀ではないし、訓練の後に2人きりで話すこともある。フランツ達ほどベッタリとは言わないが、それなりに上手く付き合っているとは・・・思う。

「そっかぁ。あの子、あんな性格でしょ?だから少し心配でね」
「はぁ・・・」
「でもジャンが一緒なら、心配ないね」
「たまに、俺では手におえない時もあります。本当にロゼッタの面倒見てきたペトラさんを尊敬しますよ」

普段はそこまで無くとも、今日のような砕けた日のはしゃぎ様は、それこそサシャやコニ―に引けを取らない程だ。それが常だったのであろう昔を想像するのは容易い。

「おまけに頑固も入ってるもんねー。でも・・・」

いつの間にか目的地に到着していたらしい。ペトラさんの柔らかくも訓練をしてる証拠が残る手のひらに、俺の骨ばった手が包まれた。手のサイズは、ロゼッタとは少し違う。

「あなたと居るときのあの子の表情、私もあんまり見た事ないのよね」
「・・・え」
「なんて言えばいいのかな。とにかく、すごく幸せそう。羨ましくなっちゃうよ」

ロゼッタのこをよく知っているペトラさんの言葉だからこそ、その言葉には意味が込められているような気がして。

「重いかもしれないけど、これだけは言わせて。ジャン、本当にありがとう」

死に急ぐあの子に、幸せをくれて。そう言ったペトラさんは、手をもう一度強く握った後、ゆっくりと離した。

「・・・あ、2人とも来たね」

何も言えずに立ち尽くしていると、ペトラさんが通りの方に向けて手を振った。慌てて近寄ってくるのはあの上官とロゼッタ。一直線にこちらに駆け寄ったロゼッタの顔をまじまじと見る。・・・可愛いな。

「ごめんねジャン、待たせちゃって・・・どうしたの?」
「ロゼッタ、私たち行くけど。あんまりジャンを困らせないようにね」
「分かってるよ!もう・・・。オルオさんも、失礼します」

ペトラさんとオルオさんが街から離れていくのをどこかボンヤリと見つめていると、小さな手が俺の手を包んだ。この温かさは知ってる。少し強く握ってやれば、微かに染まる赤い頬。これが、姉であるペトラさんも知らない顔。手と一緒に心も温かくなっていく幸せを噛みしめながら、兵舎への道を歩いた。幸せにされてるのは、俺の方だ。




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