鋭い目が幾分柔らかくなった。私がそれに気づいて、そんな彼の視線の先を辿れば、いつもそこにはミカサがいた。綺麗な黒髪に、白い肌。周りの目を引くその顔立ちは、間違いなく東洋人のものだった。
「ジャンってば、まーたミカサばっかり見て」
「っ・・・!んだよロゼッタ・・・いつの間にいたのか」
「ずっと居たよ。ジャンが気づかなかっただけでしょ」
微かに赤く染まる彼の頬を見て、ズキリと胸が痛んだ。ジャンがそんな顔を見せるのは、決まってミカサ関連の話題になった時だけだ。その表情が見たいだけに、わざとミカサの話を持ち出して勝手に傷ついて、バカみたい。
「ミカサの髪が綺麗だなーと思って眺めてただけだよ」
「なにそれ、変」
「うっせーな」
クスクスと笑ってやれば、バツが悪そうに頬を掻く。あぁ、好きだなぁ。ジャン。あなたのことが好きでたまらないよ。それこそ、1日中目で追ってしまうくらいに。だけど、目が合ったことなんてないよね。あーあ、私も人のこと言えない。
「私、よくミカサに似てるって言われるんだぁ」
こちらを見た彼の瞳に、私が映った。全然似てない。ミカサになんて、全く似てないよ。よく言われるのは本当。だけどそんなの、黒髪だけだ。今まで生きていて東洋人で良かっただなんて1度も思ったことはなかったけれど、今だけは少しだけ得した気分。
「は?どこがだよ」
でも知ってる。ジャンは決して、ミカサの黒髪に惚れたのではない。最初こそはそこに惹かれたのかもしれない。だけど、彼がこんなにも一途にミカサを想うのは、それだけが理由じゃないことを、私はいつの間にか理解していた。その証拠にほら、私には目もくれない。
「ミカサはお前みたいにドジでも間抜け面でもねぇ」
「誰が間抜け面だって?」
「お前だよ、お前」
グイッと両頬が引っ張られる。そんなことするから間抜け面になってしまったんだ。私の顔がおかしいからとケラケラ笑う彼を見て笑う。彼が楽しんでいると私まで楽しくなってくる。
「ねぇ、ジャン・・・いや、やっぱり何でもない」
「は?」
胸につっかえていた言葉を飲み込んだ。ダメだよ、分かってるじゃないか、私がミカサの代わりになれないってことくらい。ミカサのように綺麗でもない、強くもない。何よりジャンはミカサの代わりなんて望んでない。本当に、彼女が好きなんだから。
「なんだよ、変な奴だな」
「ジャンに言われたくないよ」
「んだと!」
両手で私の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でまわすジャンが笑った。嬉しいけど、切ない。ミカサに見せるあの表情を私に向けてほしくて精一杯頑張ったつもりだった。だけど私に向ける彼の視線は1度だって色を変えることはない。これが叶わない恋だと悟った後は、ジャンの恋を応援するようになった。彼がミカサに幸せになってほしいと願うように、私もジャンの幸せを祈る。
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