企画部屋 | ナノ




私は夢でも見ているんだろうか。初めてであった時のように優しい目をしているように見えるのだけれど。これは、私の幻覚?トロスト区を奪還して、やっとのことで生き残れたというのに気をおかしくしてしまったのかもしれない。ジャンの指が髪に触れて、ビクリと肩が跳ねた。


「なぁロゼッタ。俺は最低な奴だろ」

「・・・え?」


笑うでもなく、泣くでもなく。ただ柔らかい視線を私に向けるジャン。嬉しいと言うよりも驚きの感情が勝ってる。本当に、私に向けられているとは思えない。だけど彼の口から出て来た名前は、間違いなく私のものだ。


「お前が・・・今までどれだけ辛い思いをしてきたのか、俺は知ってる。だけど俺は見て見ぬふりをした。散々傷付けた。なぁ、俺を恨んでるだろ」


ジャンの言っていることが理解できない。彼の目的が分からない。だけど一つだけ分かる。彼の瞳から流れている涙は、本物だということ。それは、何の涙?


「罵るなり、殴るなりしてくれ、頼む」

「ど、うして、」


私が、あなたを。彼の大きな手が、私の肩を掴んだ。震えているのは彼の手か、はたまた私か。


「作戦は成功した。だが人が・・・たくさん死んだ。マルコも死んだ。なのに、お前が生きててよかったって、お前を見た時、安心したんだ。なぁ、自分勝手もいいとこだろ。嫌いになれよ、俺のことなんて」


最後の一言に、何かがプチリと切れた。ジャンは一体何を言ってるんだ。嫌いになれって、誰を?ジャンを?どうして!


「な、んで・・・どうしてそんなこと言うのよ!私が・・・私が今まで、あなたを好きでいられたのは、」


私に初めて手を差し伸べてくれたあなたは、私にとってどんな存在だったか知ってる?誰もまともに私と話してくれない中で、どれだけ救いになったか知ってる?


「ジャンが、友達想いで、口は悪いけど優しいの知ってる・・・。酷いこと言われたって、私、嫌いになれなかった!私の目を綺麗だって言ってくれた!」


こんなに大声で叫んだのなんて、初めてだ。ジャンが目に見えて驚いてるのが分かる。私だって、一緒だ。犠牲がたくさん出た。同期もたくさんいなくなってしまった。だけどジャンが生きてると分かったとき、何とも言えない安堵感が胸を満たした。それが人として冷酷なことだと言うんなら、私は化け物と呼ばれたって構わない。


「全部あなたが背負う必要なんてない、ねぇジャン、私はずっとジャンの味方だよ」

「、ロゼッタ」


肩を掴んでいた両手が、ゆっくりと背中に回る。大きな身体に包まれて、身体も心も暖まる。感じた事の無かったそれに、涙が零れた。こんなに暖かいんだね、人って。


「ロゼッタ、なぁ、こんな俺の傍にいてくれるのか」

「あなたの傍にいる以上に幸せなことなんてないよ」


あなたを追いかけてよかった。これからあなたと歩んで行けるなら、私はどんなことだって耐えるよ。


「好きだ。ずっと好きだったんだ」


初めて知ったジャンの気持ちに、益々涙は止まらなくて。




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