企画部屋 | ナノ



「おい、ロゼッタ・・・。今日は寝たほうがいいんじゃないか」

「まだ、まだだよ、エレン、」


閉じかけていた目を、カッと開いてまたノートと向き合う彼女を見るのは、今日だけでもう5回目だ。先ほどからこんなやりとりをしている。


「頑張らないと、明日の試験落ちちゃう」

「お前、ここ1週間毎日頑張ってたから大丈夫だって」


俺がそう言っても、「ダメなの」とそればかりを繰り返してノートから目を離さないロゼッタに小さくため息をついた。彼女はこう、どうして変なところでスイッチが入るのか。普段はボーっと過ごしているくせに。


「ロゼッタ、早く寝ないと明日試験中に寝る羽目になるぞ」

「・・・だって、」


ひたすらノートと睨めっこしているロゼッタは、俺の方をチラリと見てバツが悪そうに声を出した。


「だって、明日の試験落ちたら、兵士になれなくなっちゃうし・・・それに、エレンと一緒にいられなくなっちゃう」

「・・・、」


そんなの、ダメ。絶対に嫌だと、彼女は続けて言った。そりゃあ、誰だって恋人と別れたいとは思わないだろう。だけど、この2人っきりの状況で、そんなことを言うなんて反則だろう。


「バカ、ロゼッタ可愛すぎ」

「・・・エレン?」


相当眠いのだろうか。どこか焦点が定まらない様子のロゼッタを覗き込んで、迷いなく少しだけ開いている口に自分の唇を重ねる。それと同時に目を見開いたロゼッタが、なんとか抵抗しようと両手で押し返してくるけど、その手に力は入っていない。


「えれ、やめて、勉強しなくちゃ、」

「大丈夫だって。勉強は充分だろ」

「やだー、エレンと一緒にいたいんだってば」

「だから、大丈夫だっつってんだろ」


やだやだと、エレンをなんとか引き離そうとするロゼッタの腕を引いて可愛らしい唇に何度も何度も自分の唇を重ねた。


「もう、知らない。試験落ちたらエレンのせいだよ」

「落ちたって、俺はお前と離れる気なんてねーよ」


恥ずかしげもなくそんなことを言ってやれば、ロゼッタの顔は決まって真っ赤になる。この反応が見たくて言ってるってのもあるけど、実際にロゼッタが開拓地に行ったとしても、俺はロゼッタと別れる気なんて、微塵もない。


「なんでそんなこと、平気で言うかな」

「さぁな、なんでだろ」


とぼけて言うと、恨めしそうにこちらを見てくるロゼッタと目が合った。瞬きが多い所を見ると、先ほどの出来事は眠気覚ましにはならなかったようだ。だったら、ともう一度ノートに視線を戻したロゼッタの顔を優しく掴んでこちらを向かせると、ロゼッタは慌てたように俺の顔の前で手を振った。


「分かった、分かったよエレン。このページだけ勉強させて!そのあとは付き合うから、さ」


つまり、そこが終わればキスし放題。そういうことだ。最近勉強のことばっかりでロクに触らせてももらえなかったから、あと数分くらいなら、まぁ我慢できるだろう。了承の意味で机に肘を乗せると、ロゼッタはペンを持ち直してノートと向き合った。

しかしまぁ、よくもそんな眠気の中勉強する気になるものだ。それも俺と居たいがためだと思うと、口元が自然ににやけてしまう。慌てて手で押さえてロゼッタに見られていないだろうか、と視線を彼女に向けたが、彼女はこちらを見ていなかった。それどころか、身動き一つしていない。


「おい、ロゼッタ・・・うわ、」


肩に手を置くと、一気に彼女の身体が崩れた。机に突っ伏してしまった彼女を覗き込んでみると、案の定、すやすやと眠っている。おい、ちょっと、待てよ。頬をツンツンと突いても起きる様子がないから、当分起きないだろう。どうしたものか。自分だけ部屋に戻るわけにもいかないし、かと言って彼女を起こすのも気が引ける。だとしたら、選択肢は1つしかない。


「勘弁してくれよ、ロゼッタ・・・」


彼女が隣にいる状況で、一晩過ごせというのか。それに、一切手を出さずに。その後数分悩みぬいたが、俺も眠気には勝てない。夢を見ているのだろうか、幸せそうに眠る彼女の横で眠りについた。次の朝、手を繋ぎながら寝ている俺とロゼッタを発見したアニにこっぴどく説教されたのは言うまでもない。




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