企画部屋 | ナノ



「あの、ジャン、今度のことだけど・・・、」
「なぁー、ジャン、お前これ当番だったろ?」
「ん、あぁ、わり。ロゼッタ、またあとでな」

私の返事を聞かないうちに、コニ―と共にジャンは去ってしまった。仕方ない、仕方ない、だって当番なんだから。数日前からずっとこんな感じだけど、仕方ないよね。最近こんな忙しい日どころか、休日だって予定が合わないことが多い。だけどもう目前に迫っている休日は、ジャンも予定が入ってないらしいということを聞いた。だから2人で出かけないか、と誘おうとすれば、この様だ。2人が去った方向をジッと眺めていると、後ろから突然頭を小突かれた。

「あれ、アニ」
「こんなとこで、何してるの?」
「え?あぁ、いや、ちょっとボーっとしちゃっただけだよ」

アニこそ、とっくに部屋に戻ってると思ったのに。聞き返してみれば、ミーナと今度の休日のことについて話していたという。あぁ、そういえば皆、休日のことで話が盛り上がってたなぁ。

「ロゼッタも誘うって言ってたけど」
「うーん、私は、ね。ジャンを誘おうと思ってて」
「ジャンを?」

そういえばあんたたち、最近一緒にいる所見ないね。アニに言われて改めて実感した。周りから見てもそう感じるということは、確実に距離が開いてるのではないだろうか。表情を暗くしたロゼッタの顔を、アニが心配そうに覗き込む。

「あんたたち、何かあったの?」
「や、何かあったって程でもないの」

そう。だってこれは私の思い込みかもしれないから。別に喧嘩したわけじゃないし、目に見えて拒絶されたわけでもない。ただ、最近はジャンから話しかけてくれることも少なくて、話しかけようとすれば用事があるからまた今度、とかわされる。もしかしたらジャンは、私のこともうどうでもいいのかな、なんて。直接言われたわけでも、噂があるわけでもないから本当に私の思い込みなんだけど。

「そう。何かあったら、相談してくれてもいいんだよ」
「本当に大丈夫だよ、アニ。ありがとう」

無理やり笑顔を作れば、アニの眉は益々顰められた。アニは優しいから、心配してくれてるのだろう。だけど、これは周りの人から見れば下らない悩みだろうから。

「じゃあ、私戻ってるから」
「うん、後でね」

どうやらアニは何かに用があったミーナを待っていたようで、奥からやってきた彼女と一緒に宿舎に戻った。そろそろ私も、戻らなきゃなぁ。そう思って上着を取ろうと後ろを振り向いたとき、心臓が高鳴った。

「あの、ジャン、」

考えるよりも先に、声が飛び出てしまった。奥からやってきたジャンは私に気が付くと、ゆっくりとこちらに向かって歩き出した。えぇと、何を話せばいいんだっけ。休日のこと、誘わなきゃ。あぁでも、あの事も話したいな。何でもいい、何でもいいからジャンと話がしたい。

「えっとね、その、」
「わりぃ、ロゼッタ」
「・・・え?」

疲れてるから、また明日でいいか。最近よく聞く言葉だ。あぁ、なんとなく想像できる。彼が、今何と思っているか。面倒くさい、彼は恐らく、そう思ってるんじゃないだろうか。悪い想像ばかりするのは私の悪い癖だといろんな人に指摘されたことがあるけど、こればかりは、私の想像通りな気がして。はは、疲れてるときに自分に合わないテンションで話しかけられたら、それは恋人であっても面倒かもしれない。そうだよね。でも、でも。

「な、んでッ・・・」
「・・・、ロゼッタ?」

仕方ないことだと、言い聞かせてたけど。だけどもし、もし面倒だと思うんだったら、言ってくれればいいじゃないか。面倒だと、お前とは一緒にいたくないんだと。なのにそうやって次があると思わせてくるから、私はずっと追いかけてばかり。

「また今度、また今度って、ッずっと言ってる、じゃない」

止まらない。嗚咽と共に出てくるのは、どれもこれもジャンに対する文句ばかり。あぁ、こんなんだから嫌われるのに。滲んだ視界のなかではジャンの表情を見ることも出来ないけど、きっと困ってる。それか、面倒くさい。そんな顔をしているかもしれない。想像すればするほど、涙が溢れてきて。

「ッ、嫌なら、言って、よ」
「おま、何、を」
「そんなに私と一緒にいたくないなら、別れたいって一言、ッ言えばいいじゃないッ」

勢いよく涙を袖で拭うと、さっきよりはハッキリと視界が見えた。思い切りジャンを睨みつけてみれば、想像通りの顔が見える。そう思ってたのに。

「・・・ジャン?」
「すまねぇ、ロゼッタ」

どうして、今まで傷ついてたのはこっちの方なのに。なのに、どうしてジャンがそんな、悲しそうな、苦しそうな顔をしてるの?やめて、そんな顔させたかったわけじゃないの。慌てて強く言ってしまったことを謝ろうと口を開いた。だけどそれより早く、ジャンは私の顔を自分の方に埋めた。

「すまねぇ、俺はずっと、ロゼッタにそんなこと思わせてたのかよ・・・」

情けねぇ。そんな小さな呟きも、すぐ近くにある私の耳には確かに届いた。

「、だって、だって。最近少しも、話してないからッ」
「悪かった。疲れてたのは本当だ。でも、」

ジャンの大きな手が私の顔の輪郭を優しくなぞる。以前と変わらないそれに、余計に涙が溢れてしまって、それをジャンの指が拭ってくれて。それだけで、さっきまでの嫌な感情が溶かされていく。なんで彼の手はこんなにも優しいんだろう。

「別れたい、とか言うのは聞き捨てならねぇな」

穏やかだった顔が一変、ニヤリと口角を上げていつもの意地悪な顔に戻る。

「あの、ジャ・・・ンッ」

背中に回されていた腕が、後頭部に回って動かせなくなる。近づいてくる彼の名を呼ぼうとすれば、すかさず塞がれる唇。いつもより深いそれに、呼吸さえままならない。だけどそれさえ愛しくて。

「最近、一緒に居れなくて寂しかったんだろ?だから、その分だ」
「・・・、ジャンのバカ」

散々恥ずかしいことをしてくれたくせに、今更になって顔を赤く染めるジャンの全てが愛おしい。シャツを握っていた手を緩めて、ゆっくりとジャンの背中に回す。ピタリとくっつけば、伝わってくる彼の体温。あんなに遠ざかっていた彼が、今はこんなに近くにいる。それだけで、今まで悩んでいたことが馬鹿らしくなるほど安心した。




真白様、大変お待たせしました。
私の妄想の中のイケメンジャン君が暴走しました。あちゃー。
ご期待に添えるような作品になったかは分かりませんが、楽しんでいただければ幸いです!
前半の夢主の想像の中のジャンが嫌な奴や・・・。
でもジャンはただ夢主の気持ちに気付いてなかった。鈍感なのか、アホなのか。でもイケメン。

真白様、素敵なリクエストをありがとうございました^^




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