企画部屋 | ナノ



「これ、可愛い・・・。あ、あれも」
「・・・」

もう訓練所の近辺は行きつくした、と言うことで少し奥の方に行ってみればこの様だ。ロゼッタの好きそうな店が立ち並ぶ通りに、ロゼッタが目を輝かせたかと思えば次の瞬間にこれだ。恐らく本人は、ジャンとデートに来た、ということも忘れて走り回ってるのであろう。

「なぁ、ロゼッタ、いつまで・・・、」
「迷うなぁ。こっちの方がいいかな」
「・・・」

最初こそ、ロゼッタがはしゃぐ姿を見るのは嫌いじゃないから、とただ着いて行ってはいたが、それは限度内での話だ。こちらに目もくれず、ひたすら店を回るロゼッタを何時間も見ているのは、流石に面白くない。くそ、俺はお守に着いてきたんじゃねぇんだぞ。ふと、通りから外れる路地に目が向いた。

「ニャー」
「お、」

猫を見るのは、何か月ぶりだろうか。野良猫なんてそこらにたくさんいるのだろうが、外に出る機会があまりないせいで、ほとんど見ることはない。屈んで猫を呼んでみるも、猫はそんなジャンに目もくれず路地の奥へ行ってしまった。まぁ、野良猫なんてそんなもんだろ。再び通りの方に目を向けて、冷や汗をかいた。不覚だ、ロゼッタを見失った。

「まじかよ、勘弁してくれよ・・・」

昼時で人の多いこの大通りから、あの小柄なロゼッタを見つけるなんて、困難だ。ロゼッタは俺がいないことに気付いたのか?もし気づいたとしても、俺とどこではぐれたかなんて、分からないはずだ。何しろ、あんなにはしゃいでたのだから・・・。

先ほどまでは気にならなかったのだが、この街の者だろうか。あまりガラがいいとは思えない人間もいる。アイツだって兵士なのだから、絡まれた所でただ流されるような奴ではないが、大勢に囲まれていたら・・・。ロゼッタが目に見えないせいで、嫌な予感しかしない。とにかく、一刻も早く見つけなければ。

「クソ、なんで目を離しちまったんだか」

一瞬でも目を離せばこうなることは分かってたこんなに人が多いのだから、当たり前だ。なのに猫なんかに気を取られやがって。ロゼッタもロゼッタだ。道なんて分からねぇくせに、ひょいひょい離れていきやがって。今頃、どうしているだろうか。さすがに自分がはぐれてしまったことに気付いているだろう。知らない土地で1人だなんて、心細いのが嫌いなロゼッタはきっと泣いてしまうだろう。

「あの、身長はこのくらいで・・・明るい茶色の髪をした女の子、見ませんでしたか?」
「その子か分からないけど、1人で不安そうにしている女の子なら、向こうに行ったよ」

やっとロゼッタの情報を手に入れた。確信はないが、なんとなくロゼッタのことだと分かる。店主に礼を言って、その方向へ向かうと人があまりいない公園を見つけた。

「・・・あ、」

いた。遊具に座って、俯いている。見つけるや否や、焦りからか足が段々と速くなっているのが自分でも分かる。その足音に気付いたらしいロゼッタが真っ赤になった顔を上げる。チクショウ、泣くくらいなら、最初から迷子になるな、バカ。

「ジャ、ジャン・・・」
「こんの、バカ野郎!」

怒鳴るのと同時に、掴んだ肩がビクリと跳ね上がる。泣き止んだ所だっただろうに、ジワリと浮かび上がってきたそれは、間違いなく涙で。それを確認した途端、安堵した。よかった、よかった、無事で。ロゼッタの顔を肩に押し付ける形で抱きしめた。しばらくジッとしていたらしく冷えている身体は、走り回って暖かくなったジャンとは正反対で。

「心配したんだぞ・・・!」
「ご、ごめんなさッい、」
「1人でどこそこ行きやがって、お前は」
「ジャンが、いなくなってて、私、私・・・!」

シャツがロゼッタの涙で濡れていくのが分かるけど、そんなこと今はどうでもいい。こんな街中で犯罪に巻き込まれることなんてあまりないとは分かっていても、やはり心配なものは心配で。

「ジャン、ごめんね、ごめんなさい」
「もう、いい。いいから、泣きやめよ」

反省している様子のロゼッタをこれ以上責めることなど出来ない。元はと言えば、自分が目を離したことにも非があるのだ。

「そろそろ、帰るぞ。歩けそうか?」

今日は随分と疲れた。走り回ったジャンはもちろん、ロゼッタも気が滅入ったようで、返事の代わりにジャンの手を取った。

「ジャンが、見つけてくれてよかった」
「俺以外に、誰が見つけるんだよ」
「それもそうだね」

小さく笑うロゼッタは繋いでいる手を強く握った。ジャンも、ロゼッタが痛がらない程度に握り返してやると、ロゼッタの顔に赤みが増した気がした。もしかしたら、夕日のせいかもしれないが。多分、自分も同じような顔をしているのだろう。そんなことをぼんやりと考えながら、それを誤魔化すために、前を向いた。





拗ねたジャンと焦るジャンと怒ったジャンでした!
このフレーズ、とても気に入ってしまいました・・・。
この2人が手をつなぐのに慣れてなかったらいいな〜なんて思いながら書きました。

るはん様、素敵なリクエストをありがとうございました^^




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