やっと厳しい訓練を終えて、馬の世話を一通りこなしてから建物の外に出ると夕日をバックに誰かがこちらに向かってきているのが見えた。誰か、なんてシルエットを見ただけで分かるけれど。
「エレン君も訓練終わったの?お疲れ様」
「ロゼッタさんも、お疲れ様です!」
ドン、と左胸に拳を打ち付ける様は、いつ見ても見事なものだ。最近彼とはこうして鉢合わせすることが多くて、その度に何かを手伝ったりしてくれる。本当にこの子が巨人化してしまうのか、半信半疑になってしまう程訓練にも熱心で、とてもいい兵士だし、後輩ながらカッコいいとも思う。
「あ、ロゼッタさん。ここ、怪我されたんですか?」
「え・・・?あ、うん。立体機動の時に、少し」
不意に伸ばされた手にドキッと胸が跳ねた。いけない、ただ傷を確かめてるだけなのに。頬に出来た小さな傷を数度撫でるエレン君の指に、私の心臓はこれでもかという程鼓動する。これ以上近づかれたら、聞こえてしまうのではないかというくらい。
「痛そうですね・・・」
「大丈夫だよ、この後すぐに消毒に行くから」
「・・・」
「エレン、君?」
傷を撫でる指を止めずに目の前に立つエレン君は、年下と言えども背は自分より高い。この状況に慌てない人間など、いるのだろうか。目の前で手を振ってみようと片手を上げると、それを素早く確認したらしいエレン君の腕がそれを阻止する。傷を撫でる指と自分の手首を掴む腕。もはや思考回路が機能していないから、きっと今の私の顔は間抜けだ。
「ロゼッタさん、その、すみません」
「は?え?ちょっと、エレン君、何、きゃっ・・・」
ぬるりと頬に感じる感触。目の前のエレン君の顔。なんで、エレン君、私の頬を舐めてるの?
「いや、いやいや!」
「ッ、あ、すみませ、」
渾身の力で咄嗟に突き飛ばすと、彼はやってしまった、というような表情でこちらを見て慌てだした。本当にとんでもないことをやらかしてくれたけど、今は胸が痛いほど跳ねていて、状況を冷静に判断できそうにない。先輩として、ここは一体何があったのか聞くべきなのだろうけど。だって、いきなり人の傷口舐めるだなんて、普通じゃない。
「あぁ、あの、その、ロゼッタさん、」
「えっと・・・」
「なんというか、その、ロゼッタさんの顔があまりにも綺麗だったから・・・!」
「は?」
「あぁ違う、違います、ロゼッタさんのことが好きすぎて、」
「え?」
私、ロゼッタ。この世に生を受けて18年。今まで数回男性とお付き合いさせてもらったことはあるけれど、こんな恥ずかしい言葉を吐かれたのは、流石に初めて。あれ?でも、嫌な気はしないな。それどころか・・・。
「本当に、すみません。俺、どうかしてました・・・」
申し訳なさそうに頭を下げてどこかへ行こうとするエレン君の腕を、咄嗟に捕まえたのは紛れもない私の手。自分でもどうしてエレン君を止めたのか分からないけど、以前から合うたびに感じていたこの感情はきっと、
「わ、私も、好きだよ、エレン君のこと」
嬉しそうに表情を緩めた彼が私を抱きしめるのが、スローモーションに見えた。後輩のくせに、私より身体が大きいなんて、ずるい。私だって、抱きしめたいのに。
「やった、やった、大好きです、ロゼッタさん」
何度も何度もそう言ってくれる彼の声を聞いている内に、そんなことさえどうでもよくなっていった。私は自分が思っているよりもずっと、エレン君のことが好きだったようだ。
年上夢主のあまーいエレンでした!
何気にエレン夢を書くのが初めてで、すごく楽しかったです。
エレンに目覚めてしまったかも・・・。
りぃ様、素敵なリクエストありがとうございました^^
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