企画部屋 | ナノ



くそ、こんなつもりじゃなかったんだがな・・・。


「で、でね。サシャったらそこで大きなくしゃみを・・・あ、」

「あっ、・・・わり」

「ううん、大丈夫・・・」


一瞬触れてしまった手を、慌てて離す。あぁ、今それとなく手をつないどけばよかった。思いついた時にはもう遅く、隣を歩いているロゼッタは気恥ずかしさからか腕を後ろで組んでしまった。あぁちくしょう、またここからか。


「それで・・・ジャン、聞いてる?」

「あ?あ、あぁ。わりぃ」

「・・・、じゃあ、また最初から話すね」


正直、何も話なんか聞こえてこない。歩きながらチラリと横目で盗み見ると、ひたすら楽しかったらしい出来事を話すロゼッタ。あー、やっぱり可愛いな。今となっても信じられない出来事だが、割と訓練兵の中で人気のあるロゼッタに勢いで告白してしまって、予想外に良い返事をもらえたのはつい先週のこと。念願叶ってやっと街にも一緒に出掛けることが出来たというのに、ロゼッタが隣にいるだけで緊張して話も出来ない。くそ、男として情けなくないか、俺。

こんなに緊張するものだとは、思ってもいなかった。付き合ったら自然に、恋人らしいこと・・・。そりゃあそれなりに年頃だし、手をつないだりキスしたり、したいと思う。だが現実はどうだ?このままじゃ、呆れられる。つまらない男だと、フラれるかもしれない。あぁもう、どうすりゃいいんだ。


「だから私ね・・・、」

「・・・」


ひたすらなにかを考えている様子のジャンを見たロゼッタは、また新しい話をしようと開きかけていた口を閉じて、足を止めた。2,3歩先を歩いた時にジャンもそれに気づいて振り向くと、そこには今にも泣きだしてしまいそうなロゼッタの姿。


「・・・おい?」

「あの、私といるの、そんなに楽しくないかな」


今まで聞いたことのない彼女の弱々しい声に、ハッとした。俺、今までボーっとしてて、コイツの話、何一つ聞いてなかった。


「あ、ち、違うんだ、」

「だって、ジャン、さっきからずっと上の空じゃない」


小さな手のひらが顔を覆う。あぁ、泣かせてしまった。理解したのと同時に頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が襲ってきた。俺がショック受けてる場合じゃないんだ、どうすればいい?この状況は、どうすれば・・・。


「ロゼッタ、すまねぇ、」

「ッ、ううん、謝るのはこっちの方だよ。つまらない女で、ごめんなさい」


つまらない?いいや、誤解だ。ここ数日間ロゼッタと話していてつまらないと思ったことなど、1度もない。けどそんな誤解をさせてしまったのは、間違いなく俺で。


「私、ジャンと出かけるのが楽しみで、」

「・・・は?」

「だから、いつもより少しおしゃれして、ミーナ達に、どんな話をすればいいのか、とかいっぱい聞いて勉強した・・・。けど、やっぱり私なんて、ジャンに見合わないよ」

1人で舞い上がっちゃって、恥ずかしい。なんて言うロゼッタに、伸ばしかけていた腕はピタリと止まった

なんてこった。ロゼッタが泣いてると言うのに、こんな状況なのに、みるみる熱くなっていく頬と微妙に上がる口角は隠せなくて。俺の為に、そこまで頑張ってくれていたのか。先ほどまで下らないことで悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。


「な、んで笑ってるの?」

「ロゼッタ、」

「え?」

「手を、つないでもいいか?」


しばらく目を見開いたままパチクリと数度瞬きをしたロゼッタの頬を拭いてやる。それは今の俺の精一杯の愛情表現で、それがロゼッタに伝わったかは分からないけど、少し赤くなった目を細めて大きく頷いたロゼッタの小さな手を包んだ。




手をつなげずにもやもやしているジャン、如何でしょうか・・・!
お互い後になるとアホらしくなるような悩み事をしているカップルとか可愛いなと思いまして、このような作品になりました。ジャン君はきっとこういうのめちゃくちゃ緊張するタイプだと思ってます!

ぱすた様、素敵なリクエストありがとうございました^^




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