※IF設定で長編夢主は病気で死亡。ジャンが男手ひとつで子育て。「ねぇ、ジャン」
「・・・ロゼッタ、」
「あの子を守ってね。約束だからね」
「あぁ・・・」
弱々しく微笑むロゼッタに、ただただ拳を強く握る。何もできない自分が、腹立たしい。ロゼッタは、自分の手を握ってほしいとせがんだ。
それから数か月後、ジャンが壁外遠征から帰ってきてからすぐに、看病を任せていた近所の店の女主人にロゼッタの死を知らされた。
「・・・、」
久しぶりにこの夢を見た。何年も前の出来事なのに、ジャンの記憶にハッキリと刻み込まれている。
寝すぎたのか、少し痛む頭を押さえて立ち上がった。
もうこんな時間か。今日仕事があったら絶対に遅刻だな。まぁ休日だから寝坊したんだが。
「ティナ、起きろ。もう朝だぞ」
隣で寝ていた娘の、色素の薄い茶髪を軽く撫でると少し身じろぎをして目を開けた。
チラリと見えた黄色が、しっかりとジャンを捉えてニコリと笑った。
「パパ、おはよー」
外の明るさのせいか、何度も瞬きを繰り返すティナを抱き上げた。
フラフラと歩かれては、いつか躓くのではないかと気が気でない。
顔を洗わせて席に着かせると、ようやく朝食の用意に取り掛かる。
最初こそは自分でも食えないと断言できるほどの料理の出来前を披露していたジャンだったが、
回数をこなすことで今では自他ともに美味しいと認める料理を作ることができるようになった。
出来上がった料理をティナのいる机に運ぶと、好物のパンと苦手なニンジンが一緒に出て来たせいか、複雑な表情をした。
「ニンジン、残さず食えよ」
「やだ。ティナ、ニンジン嫌いだもん」
可愛らしく頬を膨らませる娘に、思わず残すのを許してしまいそうになる。
だが、ここで甘やかすわけにはいかない。まだ5歳になったばかりのティナには、栄養が必要なのだ。
「でも、でも、」
「食べられたら、ティナのお気に入りの所に連れていってやる」
「ほんとに!?」
食べなくても連れて行ってあげるつもりのジャンだったが、ティナは疑いもせず苦手なニンジンを頬張る。
ニンジンは少ししか入っていなかったのに、長い時間をかけてやっと食べ終えたかと思うと、1日の終わりのように疲れた顔をした。
「ニンジン、食べた」
「おう、よく食べたな」
ジャンの顔色を窺うように覗くティナに、ニカッと笑ってやると安心して他の料理にも手を付け始めた。
その間に自分の皿を片づけ、出かける支度をする。
少し目を話した隙にティナも食べ終えていたようで、出かけたい一心か、一直線で部屋に向かった。
「パパ、はやく、はやく!」
「あんまり走ると躓くぞ」
案の定、道をパタパタと駆けるティナは躓きかけて、すぐに体制を立て直す。
すれ違った近所の女性が、そんな光景をみて微笑ましそうに笑う。
そんなことを繰り返している内にたどり着いたのは、町の郊外にある見渡しのいい草原。
季節のおかげか、ティナの好きそうな花が咲いている。世界にはこんなに綺麗だというのに、まだ巨人との戦いは終わらない。
地獄のような毎日の中で、ティナの笑顔を見ている時だけ、何もかも忘れられた。
可愛い可愛い、俺たちの、ロゼッタとの娘。自分を見つめる黄色を見ると、何年も前のことを思いだして、涙ぐんでしまいそうになる。
しかしいつまでもそうしてるわけには行かない。俺は、父親だ。
「見て、パパ!綺麗なお花、いっぱい摘んできたの!」
離れた場所にいたはずのティナが、いつの間にか目の前に現れた。手には色とりどりの花を持ってる。
嬉しそうに自分を見上げる顔は、本当にロゼッタそっくりだ。
あと7年もすれば、初めて会った時のロゼッタと同じ顔になるのでは、と言うくらい。
「あぁ、きれいだな。持って帰るのか?」
「うん!ママのお墓に、飾るんだよ!」
ティナの頭を撫でてやろうと伸ばした手をピタリ、と止めた。それに気づかないティナは、花を手で弄びながら話を続ける。
「この前ね、アルミンおじさんが来たときに教えてくれたんだよ。ママは、とっても強い人だったんでしょ?」
あぁ、あのときか。数日前にアルミンを家に招いたのを思い出した。
「ティナも・・・ティナもね、パパやママみたいに、強い兵士になるの!」
「・・・ティナ、」
「だから頑張りますって報告に行くの!お花はそのお土産」
5歳の子供にとって、母親がいないということはどれだけ心細いことだろうか。
仲睦まじげに手をつないで歩く母子を見かけるたび、ティナが俯いているのを知っている。
本当なら今だって、朝のように我儘を言いたいはずなのに。
微かに残っている母親の記憶を思い出しているのか、瞳は涙に揺れている。
涙に濡れていても分かるその強いまなざしは、兵士になりたいというのがただの夢なんかではなくて、強い意志だと感じさせた。
「ティナが、強い子に育ちますように」
ツン、と鼻の奥が痛くなる久しぶりの感覚を感じて、慌ててティナを引き寄せた。
どうすれば止まるのかわからない涙をそのままに、腕の中の小さな身体を確認するように抱きしめた。
「パパ、どうしたの?泣いてるの?泣いたらママが心配しちゃう」
涙はとうに引っ込んでしまったのだろうティナが不思議そうに問いかける。
その言葉に余計涙は止まらなくなって、情けなくて。
「あぁ、そうだな。ママに、会いに行こうな」
「うん!きっとママ、喜ぶね!」
座っているジャンの足の上に膝をついていたティナを、抱き上げて立つ。
いきなりのことで驚いたティナが軽く悲鳴をあげたが、すぐに状況を理解して嬉しそうに笑った。
今の場面をロゼッタに見られていたら、アイツは笑うんだろう。
それと同時にきっと、安心してくれるはずだ。
だってロゼッタの願いは、とうに叶っているのだから。
シリアスがお好きとのことでしたので、シリアスベースにしてみました!
この2人の子供なら、きっとこんな子なんだろうなぁ、とか
考えるのがすごく楽しかったです(´∀`*)
志摩様、リクエストありがとうございました!
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