「おい、テメッ、ロゼッタ!それ俺のパンだろ、返せよ!」
「うるっさいあなぁ、別にいいじゃん!ケチだな男のくせに」
「んだと!関係ねぇだろうが、いいから返せ!」
「しーらね」
バタバタと食堂を走り回る2人に、誰も止めに入ろうとしない。
それはもう訓練兵の中では恒例のことになっているからである。
「あ、まじで食いやがったな!食い意地張りすぎだろ女のくせに!」
「それこそ男女関係ないだろ」
「いやあるだろ!」
パンを一気に3分の1ほどかじってどうだと言わんばかりの目でジャンを見やるロゼッタは誰がどう見ても悪魔だ。
「悔しかったら私から何か奪ってみるんだな」
「言われなくても明日こそはパン奪ってやるよ!」
「言ったな?はは、宣言するなんて馬鹿だろジャン。警戒するに決まってるジャーン」
「てっめ・・・」
ジャンの額にうっすら青筋が浮かんでいる。
そんなこと気にする様子の無いロゼッタは二口目、三口目とどんどん口に詰め込んでいき、ついにパンは跡形もなく消し去った。
「あー美味しかった。お腹いっぱいになったよジャン」
ニヤリとジャンを見てその場を去った。
ジャンは未だにプルプルと肩を震えさせている。
「あー、今日もジャンの負けか」
「相変わらずだな、あの2人は」
「どう見ても恋人同士には見えねぇよな、アイツら」
後ろから聞こえてきたエレン、ライナー、コニ―の声にジャンは勢いよく振り返った。
その目は誰がどう見ても、復讐に燃えている目だった。
「おい、お前ら。どうしたらあの悪魔女に勝てると思う?」
「いや、そんなの知らねぇよ」
「ロゼッタは誰の手にも負えないからな」
皆に頼られてるライナーにさえロゼッタには叶わなかった。
「別に、無理やり止めればいいんじゃないのか」
コニ―はさも簡単だと言うように提案してきた。
「確かに他の女に比べたら暴れる癖があるんだろうけど一応女なんだから真っ向勝負でジャンが負けるはずないだろ?」
確かに、よく考えればそうだ。そういえば何故今まで大人しく見逃してたのだろう。
よし行ける。次こそ勝てる。心の中で確信したジャンは軽い足取りで食堂を出た。
「なんで付き合ったんだろうな、アイツら」
「全くだ」
「見つけたぜ、ロゼッタ」
「なんだよ、ジャン。復讐でもしに来たのか?」
馬鹿にしたような顔でジャンを見上げるロゼッタはいつもの通り余裕そうだ。
「随分と余裕そうだな」
「私は今何も持ってないぞ。ま、持ってたとしてもジャンに負けるわけないけど」
「は、俺に勝てるとでも?」
「事実、今まで負けた事ないからな」
「じゃあ、勝ってみせろよ」
ただならぬ雰囲気を纏って一歩、また一歩と近づいてくるジャンにロゼッタは冷や汗を流した。
やばい、本気だ。後ずさりをしようとするロゼッタをジャンは見逃さなかった。
「え、ちょ、ジャン君?やだなぁ、何を本気に・・・」
「勝てるんじゃねぇのか?」
「・・・はい?」
木に腕を張り付けられては身動きできない。
なんとか逃げ出そうともがくが、抵抗しようとすればするほど強く押し付けてくるジャンの手が痛くてあきらめた。
今まではこんなことなかったのに・・・いつもとは違う怖い顔をしてるジャンに喉が震えた。
「え、あの、その、」
「いつも見下してるみたいにしてみろよ」
「や、あれは、別に」
「見下してるつもりはないってか?」
冷や汗を流して蒼い顔をしているロゼッタを見て、何ともいえない感情が湧きあがって、止まらなくなる。
「ほら、さっき負けるわけないって言ってたじゃねぇか」
「それは、だって、力勝負なんてずるいだろ!」
「ずるい?じゃあお前が今までやってきたことはずるくないのか?」
「うッ・・・」
じわり、ロゼッタの瞳に溜まり始めた液体を見てハッとした。しまった、やりすぎた。
しかし気づいた時にはもう遅く、ロゼッタはジャンから顔を背けてポロポロと涙を流していた。
「あ、おい、ロゼッタ」
「・・・うっ・・ジャンなんかッ・・・ふっ・・・嫌いだ・・・!」
慌ててロゼッタの手首を解放すると、その場にずるずるとへたり込んだ。止まらない嗚咽はジャンの焦りを煽った。
「おい、悪かったって。やりすぎたな」
「・・・ッ、だってちょっかい出さないと、ジャン構ってくれないんだもん」
「は・・・俺?」
「そーだよ!恋人は私のはずなのに、あんまり構ってくれないから!」
顔を真っ赤にしてジャンを睨みつけてくるロゼッタを、こんな時なのに可愛いと思ってしまった。
「私に意地悪をやめさせたければ、少しは私を見てよ・・・」
力なさげに俯く様を見ると、罪悪感に苛まれる。まさか、泣かれるとは思わなくて。
「あ・・・あぁ、悪かった。もう泣くなよ」
「もう泣いてねぇよ」
いつの間に泣き止んでいたのだろうか、いつものようにギロリと睨まれる。
「お前なぁ・・・」
「なんで、こんなマネしたんだ?」
「なんでってそりゃお前・・・男としてやられっぱなしってのはなぁ」
ポリポリと頬を掻いて説明するジャンに、ロゼッタは噴きだした。
「なんだよ、そんなことか」
「そんなことって、俺にとっては大問題だ!」
「安心しろよ。私から見たら、誰よりもジャンがカッコいいよ」
は、今何て。横にいるロゼッタを見ると目が合った。
合ったと思ったとたん、ロゼッタが持っていたバケツを思いっきり投げつけられた。
「遅くなっちゃったのはジャンのせいだから、教官に言いつけられた後片付けジャンがしろよ!」
「んだと、お前なぁ!」
「ん?まだやってたのかアイツら」
「お、ほんとだな。懲りないなロゼッタも」
「喧嘩するほど仲がいいってな」
近くを通りかかったエレン達の視線の先には、楽しそうに笑い合っているジャンとロゼッタがいた。
男勝り主人公ちゃんとジャンのケンカップルでした!
喧嘩・・・なのかこれは(´・ω・`)
ケンカップル、書くのがすごく楽しかったです(´∀`*)
念様、リクエストありがとうございました!
長編の方も頑張りますね、応援ありがとうございます!
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