「ロゼッタ、他に痛いところは?」
「ないよ、大丈夫」
あぁ情けない。
兵站行進は元々苦手な部類だけど、雨が降っていたからといって、まさかあんなにダイナミックにこけてしまうとは。
痛む足を隠して走ったらゴールしたころには悪化して腫れ上がっていた。
それに気づいたのは、泥だらけな私を心配してくれたマルコだった。
有無を言わせず医務室に連れて行かれて、ただただ無言で治療をしてくれた。
なんだか怒ってるように見えて、中々話しかけられなかったけれど、包帯を巻き終えたマルコが話しかけてくれた。
「マルコ、ありがとう」
控えめに笑うロゼッタに、マルコは顔をしかめた。
やっぱり、怒ってる?
どうしよう、と考え込んでいるロゼッタの横にマルコは座る。
ジッと見つめられて、こんな時なのに、心臓がドクドクうるさい。
いや、恋人を目の前にして、平常心でいられるわけない。
少なくとも、ロゼッタはそうだった。
しどろもどろになっているロゼッタをしばらく見つめていたマルコは、軽くため息をついてからロゼッタの髪の毛を撫でた。
怒られるかもしれない、と構えていたロゼッタはマルコの予想外の行動に驚いて、恐る恐る顔をあげる。
マルコはというと、そんなロゼッタを心配そうに見つめていた。
その表情でなんとなく、マルコの言いたいことは分かった。
「ダメじゃないか。怪我したらすぐに治療しなきゃ」
「ごめん、なさい・・・」
確かに、早く治療していればこんなに腫れることはなかったかもしれない。
これは私の判断ミスだ。
シュンと落ち込むロゼッタに、マルコは少し考えてから諭すように話し始めた。
「責めてるわけじゃないよ。僕は君に怪我をしてほしくないんだ」
「マルコ・・・」
「ロゼッタはたまに、無茶をするからね。気が気でないよ」
「そうだよね・・・私も、マルコが怪我したらヤダ」
兵士なのだから、小さい傷ならついてあたりまえなのだけど。
苦笑いを浮かべるマルコに、ロゼッタも笑顔を返した。
「マルコが怪我したら、私が手当てしてあげる」
「はは、心強いな。ありがとう」
「嘘、本当は嫌なんでしょ?私、手当て下手だから」
「そんなことないよ」
不意に真剣な表情に変わったマルコを見て、心臓がドクリと強く動いた。
優しく前髪をかき分けてくれる手には、いつまでたっても慣れない。
少しだけ広くなった視界。少し見上げると、先ほどと同じようにロゼッタを見つめる優しい瞳。
「ロゼッタが僕のために何かしてくれるんだったら、どんなことだって嬉しいよ」
髪の毛を触っていた手がこめかみを通って、頬にたどり着く。
軽く撫でてきてくすぐったいけど、逃げる気にはならない。
「じゃあ、失敗して焦げちゃったクッキーでも喜んでくれる?」
「味がいいのはいいことだけど、それよりもロゼッタが作った物だということの方が重要だな」
「なにそれ、おかしい」
「そうかな?でも、それくらいロゼッタが好きなんだよ」
「うん、私もマルコが好き」
頬を撫でていたマルコの手が、クツクツと笑っているロゼッタの唇に触れる。
いつの間にか肩に回っていた腕に身を任せて目を瞑るとやがて柔らかい感触を感じる。
やっぱりすぐに離れてしまうけど、それでもいい。十分幸せだから。
顔が離れて目を開けると、同じように目を開けたマルコと視線がかちあった。
なんだか気恥ずかしくて、2人で笑いあう。
だから医務室の扉の外に人がいるなんて、気づかなかった。
「おい、マルコ。こんな所に・・・ロゼッタ、またお前か」
現れたのはロゼッタとマルコの共通の友人であるジャンだった。
ロゼッタとは友人と言うより、口げんか相手だが。
「お前また怪我したのか?相変わらずどんくせぇな」
「うるさいな、放っておいてよ」
「なんだよ、マルコに放っておかれたらどうせ泣くんだろ」
「マルコは別でしょ!ジャンなんかどうでもいいの」
「まぁまぁ、2人とも」
いつものことなので、マルコも本気で止めようとはしない。
こういうのは大抵、どちらかが折れるまで続くのだ。
「マルコ、お前もよくこんな面倒な女と付き合ってられるな」
「ちょっと、失礼じゃない?」
「そんなことないよ。ロゼッタは本当は素直で可愛いんだ」
恥ずかしげもなく言われると、こちらが照れてしまう。
「あぁそうかよ。もうすぐ夕食だから程々にな、バカップル」
雰囲気にあてられたのか、ジャンは足早に退場した。
「もう、いくらなんでもあれは・・・恥ずかしいよ」
「そうかな?」
「だって、ジャンがいたのに、」
「事実だよ」
ケロッと返すマルコに、もう咎める気は起きない。
「じゃあ、そろそろ僕たちも行こうか」
「うん」
歩き出したマルコの手を後ろからとって、強く握る。
ロゼッタよりも少し大きい手の平は暖かくて、彼の心を表してるようだった。
長編夢主がマルコと付き合ってたら、こうなってたのではないかと思います。
ジャンよりもカップルカップルしてますね・・・
夢主とジャンは言い合いが多いのに対して、夢主とマルコだと
マルコが一歩リードしてるイメージですね〜。それに甘える夢主。
とにかく大人なマルコに甘えまくってそうです。元はお姉ちゃんっ子ですからね!
時雨様。応援、リクエストありがとうございました!
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