企画部屋 | ナノ





「おはよー、ジャン!」
「・・・ロゼッタ、お前はいっつもいっつも」

調査兵団になってからというものの、毎日毎日訓練ばかりで忙しい。
兵士なのだから、それは仕方ないのだが休日くらいはゆっくり休んでいたいものだ。

それはジャンだけでなく、どの兵士も思っている事だった。
ジャンの恋人であるロゼッタを除いて。

目は覚めたものの、中々起き上がろうとしないジャンにロゼッタは様々な攻撃を仕掛ける。
同じように訓練を受けているはずなのに、妙に元気のいいロゼッタにジャンはうんざりしていた。

休みの度にこうやって無理やり起こされて、街だの中庭だのに引っ張られていくのだ。
今日こそは寝てやる、と決意したジャンはロゼッタに頭を殴られようが揺すられようが乗られようが体を起こさない。
そんな様子にロゼッタは不満に思ったのか、横になったままのジャンに抱き着いたり腕を引っ張ったりし始めた。
本当に、どこにこんな元気があるんだか。

ロゼッタは別に、常にこんなに元気があるわけではない。
訓練の際はここまではしゃぐこともないし、割と大人しくて真面目な方だと思う。

なのに、休日になった途端スイッチが切り替わったように甘えだす。

別に一人ではしゃぐ分には構わないが、こっちまで巻き込まないでほしい。
ライナーにこのことを相談したが、「元気な彼女でいいじゃないか」と笑われた。

こっちが元気なときならともかく、無理やり引っ張ってあちこち行くのはやめてほしい。

「起きてったら。なんで起きてくれないの?」
「頼むから寝かせてくれ、疲れてんだよ」
「でも・・・」

不安そうなロゼッタの声にイラついた。
こっちはいつも付き合ってやってるというのに、何が不満なんだ。
訓練兵時代の時はこんなことなかったじゃないか。

起き上がったジャンにロゼッタは一瞬嬉しそうにしたが、ジャンの表情はどう見ても不機嫌で、それに気づいてまた不安気な顔に戻った。

「あの、ジャン」
「お前な、少しは俺のことも考えろよ」
「・・・」
「疲れてるって言ってんだろ?我儘もいい加減にしろ」

いつもより強めに叱るジャンに、今度はロゼッタが不服だと言わんばかりのしかめっ面を浮かべた。

「私だって疲れてるもん」
「だったら休んでればいいだろ」
「だけど少しでも一緒にいたいじゃない!」

不意打ちで放たれた言葉に一瞬ジャンは言葉に詰まるが、ここで怯んではロゼッタの思うつぼだ。

「どっちにしろ昼前には起きるんだから、そのくらい我慢しろよ」
「・・・ジャンは、一緒にいたくないの?」
「別にそう言ってるわけじゃないだろ」
「だってそういう風に聞こえる」
「あぁそうか。だったらそう思っておけばいい」

淡々と答えるジャンに、ロゼッタは顔を赤くしてプルプル震えだした。

「何よ、寂しくなっても知らないからね!」
「ゆっくり寝られるなら幸せなもんだ。朝からお前の顔見ると疲れるんだよ」

最後の言葉を聞いて、ロゼッタは目を見開いた。

あ、言い過ぎた。つい思ってもないことを口にして、過ちに気付いた時にはロゼッタが部屋を出て行っていた。

あの様子じゃどこかで泣いたりするんだろう。
探しに行かなければ、と支度をはじめている自分に気づいて、ため息をついた。

なんだかんだ言って、放っておけない。





「おい、悪かったって。泣きやめよ」

ロゼッタは案外すぐに見つかった。
しゃくり声を上げて泣いているのは結構久しぶりに見た気がするな、
とのんきなことを考えていたら、ロゼッタが涙でぐちゃぐちゃになっている顔を上げた。
袖で拭いてやっても、涙は止まらないようでキリがない。

「ほんとなら・・・休みの日以外も、ずっと一緒にいたい」

ロゼッタの涙を止めようと動かしていた腕を止めた。

「だって、もうすぐ壁外調査が始まる。もし死んじゃったら、二度と話せない」
「おい、そんなこと考えるなよ」
「ジャンだって、その覚悟があって調査兵団に入ったんでしょ」

確かにそうだ。自分が死ぬところだって、何度想像したことか。
けれどロゼッタが死んで二度と会話を交わせなくなることなど考えたことはなかった。考えたくもない。

「だから、だから、1秒でも長く、一緒にいたかっただけなのに」

あぁ、ロゼッタはいつもこんなことを考えていたのか。
何も考えてないのは、俺の方だった。
ロゼッタがいなくなった後の生活なんて、想像したくもなかった。

起こしにくるあのうるさい声も、乗ってくる体の重みも、無くなると思うとなんともいえない不安が襲った。
いつ死んでもおかしくない調査兵団は、恋人が死んでしまった、という人は何人だっている。
自分たちだっていつそうなるか分からない身なのだ。
そんな生活の中で、恋人同士身を寄せたいと思うのは、考えてみれば普通のことだった。
ただ、ロゼッタの場合素直に言えないだけで。

そう思った途端、目の前で叱られた子供のように俯くロゼッタが愛しくてしょうがなく思えてきた。
そういえば俺は、ロゼッタの惹かれたんだった。



「お前がそういうなら、いくらでも付き合ってやる」
「・・・でも、」
「その代り、俺が死んだらとか考えるな。いいな?」
「う、うん」

納得はしてないようだったが、頷いたロゼッタの頭をくしゃりと撫でてやる。
手の平に合わせて動く顔が、ジャンの顔を恐る恐る覗いた。

「もう、怒ってない?」
「最初から怒ってねぇよ」
「うそ、怒ってた」
「・・・もう怒ってねぇよ」

部屋に戻るぞ、と声をかけるとロゼッタは素直にそれに従って立った。

「ジャン、ちゅーして」
「はぁ?何でいきなり・・・」
「ちゅー」
「・・・分かったよ」

甘えるようにキスをせがんでくるロゼッタの頼みなど、断ることはできない。
望んだとおりにしてやると、ロゼッタはふにゃりと満足そうに笑った。

こんな我儘娘を置いて死ねるわけがない。




家出じゃなくてごめんなさい<(_ _)>

頑固な夢主、ってのを意識して書いてみました!
まりも様の要望通りに書けたかは分かりませんが、気に入っていただけたら嬉しいです(´∀`*)

長編の方も読んでいただいてるようで、ありがたい限りです。
これからも頑張るので、ぜひよろしくお願いいたします!

リクエストありがとうございました^^




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