企画部屋 | ナノ




「なぁ、お前らいつから両想いだったんだよ!」

悪気はないのだろうが、興味津々といった様子で問いかけてくるコニ―に、ジャンはひくりと口角をひきつらせた。
この訓練兵団内で恋愛事があるのは決して珍しいことではないが、
やはり思春期だらけのこの空間でそういう類の噂は中々消えてくれなかった。
今日も今日とて熱心に質問してくる男が一人。

「うっせぇな、関係ねぇだろ」
「関係はないけどよ、気になるじゃねーか!」

軽くあしらうも譲る様子のないコニ―に、もう無視をしてしまおうと夕食のスープを啜る。

視界の端に映っているロゼッタをチラチラと盗み見るが、周りの奴らにそれがバレればどんな冷やかしを受けることか・・・
考えるだけでも嫌になるので、視線を夕食に戻した。

「でもよ、お前らそんなに仲よかったっけ?」

コニ―はバカだが、こういう所はよく見てるらしい。
確かに仲良さげではなかったんだろうが、それはお互い意識していたというだけであって。

「仲がいいからって、付き合うわけでもないだろ」
「まぁ、そうなんだけどよ」

渋々といった感じで納得してくれたらしいコニ―がジャンと同じようにパンを口に詰め込み咀嚼し始めた。

そんな様子を横目にみて、内心ホッとしたのもつかの間。
目の前にいたソバカス女がこちらを見てニヤリと笑った。
嫌な予感がして急いで目を背けるも、面白いものを見つけたように笑うユミルからは逃げられない。

「で?実際どこまで行ったんだよ、お前ら」
「・・・はぁ?」
「だから、どこまで行ったんだ?そんなに日にちは経ってないけど、キスくらいしたんだろ?」
「ちょっと、やめなよユミル!」

ニヤニヤとしている口角を抑える気はないらしいユミルはジャンの呆けた顔に今にも爆笑しだしそうだ。
どんなことを言われるか、と構えていたジャンだったが、晒してしまった間抜け面にその努力は無駄になった。

「キスって、おま、するわけねぇだろ!」

照れ隠しをするように残りのパンを頬張るジャンに、ついに耐え切れなくなったか、ユミルは机を叩いて笑い出した。

「まじかよ!お前まじで純情だな、見直したよジャン!」

ユミルの笑い声に、周りの目線が一気に集まる。
おいやめろ、ロゼッタにまで聞こえたらどうするんだ。

幸いこの会話は向こうまで聞こえてはないようで、ロゼッタは先ほどと同じようにアニと食事をとっていた。
それを確認すると今だに笑っているユミルを睨みつける。

「そんなに睨むなよ、褒め言葉だ」
「お前の言うことはなんでもバカにしてるようにしか聞こえねんだよ」
「まぁ、純情ってのは冗談だ。下心はありそうだしな」
「お前なぁ・・・」

もう言いかえすのも疲れて、机に肘をついてため息をついた。

「しないのか?そういうもんは男からするってのが、お約束だろ?」
「あぁ?」

そういうもん、とはやはりキスのことだろう。
くそ、この女にバカにされてると思うと腹が立ってくる。

「そのうち、な」
「いいのか?お前とロゼッタが付き合ったって話はもう全員に行き届いてるはずだ」
「それとこれと何の関係が・・・」
「もしロゼッタのことが好きな奴がいたら、せめてキス位つって無理やり襲うかもしれないぜ?」
「なっ!」

ユミルの言動は明らかにジャンを振り回して遊んでいるに過ぎないが、今の台詞が余裕のないジャンに火を点けた。

「くそ、やってやるよ」

ジャンはそれだけ言い残して、片づけようと席を立っていたロゼッタの腕を引いて食堂を出て行った。

「もう、ユミルったら」
「面白そうだしいいじゃねぇか。あとでロゼッタに色々聞かなきゃな」




「ちょっとジャン、いきなり何よ」

片づけをしようと席を立った途端に誰かに腕を強く引かれた。
その犯人は予想通りジャンで、いつになく真剣な顔に文句を言おうも言えなくなる。

何か大切な話があるのかと思ったが、ジャンは何も言わないままロゼッタの顔を見るだけ。
アニとの会話を中断されたロゼッタは少し顔をしかめた。

「俺たちは付き合ってるんだよな?」
「え?」
「だから、こういうことをするのも自然であって、」
「・・・どうしたの?」
「そりゃ、俺だって、」
「ねぇ、どうしちゃったの・・・・ッ」

ロゼッタの腕を掴んでない右腕が、後頭部に回って引き寄せられたかと思うと、唇に柔らかい感触。
待ってよ、これって。

「・・・・、な」

すぐに離れたジャンの顔を驚いた様子で凝視するロゼッタ。
ジャンの顔は真っ赤に染まっていてバカにしたくなったが、恐らく自分もそんな顔をしているだろう。
頬が熱いから、きっとそうだ。

「おい、これが初めて、だよな?」
「え?あ、うん?」

始めてって、キスのことだろうか?当たり前だろう。お付き合いだって初めてなのだから。
ロゼッタの返答に明らかに安心した様子のジャン。あ、もしかして。

「違うかもって思った?」

図星だったのだろう、納まりかけていた顔が、見る見るうちに赤に戻っていく。

「安心してよ、今のがファーストキスだった」
「・・・そうか」

どこか申し訳なさそうに視線を揺らすジャン。
おそらく、こんなムードの欠片もない場所で乙女の夢であるファーストキスを奪ったことに少なからず罪悪感があるのだろう。

「悪かったな、その、こんな場所で」
「別にいいよ。ジャンが相手なら、どこだっていいから」

微かに頬を染めてそんなことを言うロゼッタに、ジャンは固まった。
それがおかしくてクスクスと笑うと、照れたように目をそらして頭をポリポリと掻いた。
こんなことを言うときっと怒られるけど、そんな様子が可愛くて余計笑いが止まらなくなる。

「おい、笑うなよ」
「ごめん、だって、その顔面白くて」
「お前な・・・は、」

ジャンの首に手を回すと近くなった目が大きく見開いた。
何かを言われる前に、先ほどジャンにされたように軽く唇を合わせる。

「お返し」

悪戯っ子のように笑ってやると、ジャンは驚きながらも悔しそうにため息をついた。

「別に相手がジャンだったらどこでもいいんだけどね。ただ、ムードくらいは欲しいかな」

不満を述べると後頭部をコツンと小突いてきた。
なんだ、元はと言えばそっちがいきなりキスしてきたのが悪いのに。

「今度は、星がいっぱい見える場所がいいな」
「・・・考えといてやるよ」

面倒くさそうにしながらも、手を取ってくれるジャンの手の平は大きくて、暖かくて、安心した。

「ほんとは、ムードだってどうでもいいけど」

ロゼッタの小さな呟きに答えるように、手を強めに握った。




ユミルさん出しちゃいました(/ω\)

この2人はどこにいてもお互いがいれば幸せそうだよなぁ・・・と
そんな感じに表現できてればな、と思います!

天音様、リクエストありがとうございました^^
これからもどうぞよろしくお願いします!




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