それぞれ

「・・・なんで今日なんだ・・・!?明日から内地に行けたっつーのに!」


苛立ち、焦り、なんとも言えない感情ばかりが渦巻く。クリスタがロゼッタと本部前で別れたらしいというのを聞いた。


「・・・くそっ」


昨日最後に見たロゼッタの顔が頭をチラつく。何であんな言い方したんだ俺は。こんなことになるなんて思ってなかった。どうしても調査兵団に入るというロゼッタをなんとか丸め込もうとしても、アイツは何一つ聞きやしねぇ。



「・・・、私の命は、巨人の物でもジャンの物でもない」



こっちの気も知らないで、人類のために闘うんだと死に急ぐロゼッタを見て苛立った。そのせいで一瞬でも本当に勝手にすればいい、と思ってしまった自分を殴りたい。だから、今日こそはなんとか説得させようと思ってた。なのに


「どうすんだよ、今日死んじまったらッ」


こんなことになるなら昨日、あんな事言わずに、恋人同士らしく過ごしとけばよかったんだ。どっちかが死んでしまえば、お互いもう、抱き合うこともできない。キスもできない。一緒に暮らすことだって出来ないのに。頭を駆け巡るのは後悔と、ロゼッタの顔。

走馬灯ってやつとはちょっと違うらしいが、グルグル。想いを伝えあう前のロゼッタの顔や、付き合い始めて間もないころの初々しい、照れた表情のロゼッタ。どれもがほんの少し前の出来事のような気がするけど、もう3年経っていた。子どもである自分たちにとってこの3年は大きいもので、本当に色々あった気がする。どこを見てもロゼッタがいた、あの頃は幸せで。


「・・・チッ」


苛立ちか、不安か、柄にも無く震える手の平にはロゼッタがくれたお守りを握っている。もう大分前に貰ったその糸で作ってある飾りは、少し色あせていた。それを見ていたせいで前から来る陰に気付かなかった。


「ぐッ」

「、あ」


ぶつかった相手がエレンだと分かるとジャンは顔をしかめた。ロゼッタかも、なんて一瞬でも思ってしまった自分は、相当ロゼッタに会いたいらしい。


「、邪魔だ!」


エレンを退けてまた進もうとすると、その肩を掴まれて止められる。


「おいジャン、どうしたんだ!」


どうした?こんなときに何寝ぼけてやがんだ、この死に急ぎ野郎は。


「てめぇは調査兵団志望だから、いつでも巨人のエサになる覚悟はできてんだろうがよぉ!」


エレンもロゼッタも、どうかしてる。ジャンには人類のために闘うだとか、そんなことは理解できなかった。他人のために死ぬなど、バカのやることだ。


「ジャン、落ち着け!」

「落ち着いて死にに行けっつうのか!?」

「違う、思いだせ!」


突然エレンが声を張り上げたかと思うと、襟をつかんでいた手を無理やり解いてジャンを壁に追い詰めた。


「俺たちが、血反吐を吐いた3年間を!」

「ッ、」

「3年間、俺たちは何度も死にかけた。実際、死んだやつもいる。でも俺たちは生き残った、そうだろ!?」


エレンの瞳がまっすぐジャンの目を見る。その目が覚悟を持っていることは誰から見ても明らかだ。


「今日生き残って、明日内地に行くんだろ・・?」


静かに言って手を放すエレンから目を離せなかった。


「クソッ」


気に食わないが、エレンの言うことには納得してしまう事が多い。今回だってそうだ。俺たちは、こういう時のために訓練していたんだ。それは俺にだって理解できる。


「ジャン」

「・・・なんだよ」

「お前、ロゼッタ守りたいんだろ?」

「ッ!」

「何があったのかは知らねぇけど、興味もないけど・・・ロゼッタを守るって決めてるんなら、最後まで守れよ無責任野郎!」

「ッテメーには関係ねぇだろ!」

「じゃあ泣かせんな!」

「・・・チッ、行くぞ、ダズ」


いつもと同じ、強い意志を持った目で睨みつけてくるエレンから目を逸らして持ち場に向かう。クソ、なんでエレンにあんなこと言われなきゃいけねぇんだ。お前に言われなくても分かってんだよ、誰が無責任だ。守れればもう守ってる。自分から遠ざかろうとしているロゼッタを、どう守ればいいんだよ。


「・・・チクショウ」


情けない。今ここで悔やむしかできない自分が。







「エレン、どうしたの。そんな大声」

「ミカサ・・・いや、別に」

「あの子・・・ロゼッタのこと?」

「、あぁ。本部の前で、泣いてるの見たんだ」

「・・・そう」






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