「ちょっとロゼッタ、聞いたわよ!あんた、いつの間に!」
「・・・何、どうしたのミーナ」
「どうしたじゃないわよ!見た人がいるんだからね!」
なんのことだろうか。お風呂に入って部屋に戻ってきた途端物凄い形相でミーナが迫ってきて思わず後ずさる。
ん、でも、あれ、見た人がいる?まさか・・・。
「宿舎裏の井戸で、ジャンと抱き合ってたらしいじゃない」
ビンゴ。
恋愛ごとに関しては面倒くさい人物にバレてしまった。
まぁ、いつかはバレるとは思っていたんだけど。どうやらあの時誰かに見られていたようだ。恥ずかしいなぁもう。そんなミーナの声を聞き、周りの恋愛話が好きな女の子たちが詰め寄ってくる。そういう話になると目の色が変わるのはやっぱり、お年頃だからだろう。
「いつから付き合ってたの!」
「まさに今日だよ」
「きゃあ、うそー!」
「あんた、ジャンはそんなんじゃないって言ってなかったっけー?」
「それは前の話でしょ」
なんだかんだ言って私もそのお年頃というやつなんだけれど。
「ジャンかぁ、顔もいいし、成績もいいし。いいなぁロゼッタ」
「別に、そんなことで選んだんじゃないよ」
「性格で決めましたーって?純情ねぇロゼッタちゃんはー」
「ちょっと、バカにしてるでしょ!」
ごめん、ごめんと謝るミーナはちっとも反省してるように見えない。いや実際反省なんてしてないんだろうけど。全く、だから私はこういう類の話が苦手なのだ。出て行こうかとも考えたけれど、とっくに消灯時間を過ぎているから移動途中で教官に見つかったら面倒だ、と諦めた。今はこの場にいないアニもすぐに帰ってくるだろう。
「それにしても意外だなぁ。ロゼッタが誰かと付き合うなんて」
「私だってこんなことになるとは思わなかったよ」
「そうなの?どうせ両想いだったんでしょ?」
「あ、うん。まぁそうなんだけど」
ロゼッタの話に興味津々なミーナがわざわざ上から降りてきてロゼッタのベッドに座る。あぁ、今日も眠れそうにない。
「ジャンなら憲兵団だろうし、あんた将来が楽しみね」
ミーナの言葉に思わず苦笑いを浮かべた。さっきからそういうのでジャンを選んだんじゃないって言ってるのに。
「どうかなぁ。私、調査兵団志望だし」
「え、ロゼッタ、まだそんなこと言ってるの?」
まだ、とはなんだ。最初からずっとそのつもりなんだけど。ジャンが恋人になった今でも、それは変わらない。
「これは、初めから決めてたことだから」
「・・・でも」
「ジャンも知ってるはずだし、承知の上でしょ」
きっぱりと言い放つロゼッタにミーナが渋い顔をする。
「じゃあさ、もし、ジャンに仕事をやめてほしいって言われたら、どうする?」
考えたことなかった。というか、さっき付き合ったばかりなのに考える内容でもないだろう。
「仕事やめてほしいって、それはどういう状況で」
「ほら、内地で一緒に住みたいだとか」
ミーナの思わぬ発言に顔に熱が集まるのを感じた。
「い、一緒に住みたいって、そんな、」
「そんなとこで照れなくていいの!答えてよ、あり得ないことでもないでしょ?」
確かに、そうかもしれない。普通の恋人同士なら。けど、私はそういう選択を迫られた場合どっちを取る?ひたすら人類のために貢献するか、大事な恋人を取るか。
「・・・どうだろう」
「どうだろうって、あんたね」
「まだ今は、分からないかなぁ」
納得がいかなさそうな表情を浮かべるミーナだが、それ以上は特に突っ込む気はないみたいで、ひじをついてため息を吐く。
「ま、何にしてもよかったね」
「うん?」
「ずっと好きだったんでしょ?」
「え、そうだけど、ミーナも知ってたの?」
「あんた、分かりやすいのよ」
やっぱり、そうなんだ。アニもエレンもミーナも分かっていたということは、他にも分かってる人いるんだろうな。
自分のベッドに戻るミーナを見送りながら頬に手を当てる。まだ温もりが消えない頬を触っていると、やがて心地いい眠気がやってきた。
明日どんな顔をして会えばいいんだろう。そんな下らないことを考えている内にロゼッタは眠りに落ちた。