パタン、木製の扉を閉じてすぐにその場に座り込む。
予定よりだいぶ早く帰ってきた。宿舎にはやはり人の影があまり見当たらない。全くいないわけでは、ないのだが。
「なんか、頭痛い」
最近いろんなことがありすぎた。特にさっきのエレンとの出来事は、いまだに鮮明に覚えている。
あれからエレンは、手芸を習い始めた理由を聞かせてくれた。まぁ、単なる私と居たいがための口実だったらしい。
クスッと笑って「手芸習いたかったわけじゃないんだね」と言ってみると、エレンはしょんぼりと下を向いて「ごめん」と言った。
そのことを本当に申し訳なく思っているエレンだが、別にロゼッタは悪い気はしてなかった。
気持ちは分かるし、何よりエレンと過ごした時間はロゼッタにとっても大切な時間だった。
静かな作業が好きなロゼッタだが、エレンとの会話は作業の妨げにもならず、気まずさもない心地よい空間だったと思っている。それになにより、すごく楽しかった。
それを伝えるとエレンは打って変わって笑顔になった。やはりエレンの笑顔は人を癒す効果があると思う。
そんなことを話しているうちに本部まであっという間についてしまった。元々そんなに離れている所にいたわけではないから、当たり前なのだけれど。
そろそろ他の子たちも戻ってくるな。
時間を確認すると、もう日が傾き始めるころだった。部屋の入口あたりに置いていた刺繍糸をまとめて手にもつ。
ドクン、立った拍子に眩暈がして身体が熱くなった。弱ったな。とりあえずベッドに行こうと足を踏み出す。
あれ、なんだか、
ぐるりと景色が傾いた。
視界が真っ暗になる直前、部屋に入ってきたのは誰なのだろう。
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