元々人気が少なかった通りではあるが、今となっては周りの音が全く聞こえない。まだ日は傾いてないというのに、強く吹く風が肌を冷やして身震いをした。まっすぐロゼッタを見据えるエレンは何かを覚悟した様子で、それ以上何かを話そうとはしない。ただ、ロゼッタをジッと見ている。
ゴクリ。ロゼッタが息をのむ音だけが2人の間に響いた気がしたけれど実際はエレンにも届いてないだろう。絶句しているロゼッタだが、頭の中ではきちんとエレンの言葉を理解していた。告白、されたのだ。
それはロゼッタがジャンに向ける感情と同じもので、決して友人愛というものではないと、エレンの目が語っていた。
「エレン、その、」
続きを言わなければならない。ちゃんとこの口で言わなければ。そう思ってるのに躊躇してしまうのは、きっと自分が、エレンの立場になることを怖がってるからだ。想像して、恐れている。自分が相手に受け入れられないということを。
「ずっと見てた。ロゼッタがジャンのこと、好きなのもわかってた」
何も喋らなかったエレンが突然口を開いた。ロゼッタはそんなエレンの目を見ることさえできない。情けない。アニに勇気をもらって、覚悟してたはずなのに。いつ、どんな状況になろうと、私はジャンのことが好きなのだ。それは変わらない。なのにエレンを否定することが出来ないのは、罪悪感?自分の身勝手さに嫌気が差す。どちらも失いたくないなんて、我儘だ。
ふと、エレンが視界の端で動いた。反射で顔を上げるとエレンと目があった。なんだか、泣きそうな顔・・・。
エレンの台詞を一つ一つ思いだして、ハッとして目を見開く。そうだ、エレンは、私がジャンのことを好きだと知っていた。そう言った。それなら、私がジャンのことを見ているのを、ずっと見ていたというのか。それは私と一緒じゃないか?叶えられないと知っていても私はジャンを想い続けた。
こんなに近くに、同じ想いをしてる人がいたというのに、私はただヘラヘラ笑っているだけ。辛いのは私だけだと、思っていた。こんなに苦しんでるのは、私だけだと。でもエレンは違った。結果を知っていても私に想いを伝えた。それが何かを捨てる選択肢だったとしても彼はそれを選んだのだ。
「エレン、泣かないで」
弱い私は何も捨てられないままでいる。そんなの嫌だ。こんな我儘な私をエレンはどう思うだろうか。私なんかエレンに好きになってもらえるような人間じゃないのに。でもそれを決めるのは私じゃない。エレンの気持ちは本物だ。
「泣いてるのは、ロゼッタだろ」
あぁそうか。彼の暖かい手の平が私の頬を包み込む。あの人と同じ、暖かい手。
「ごめんね、エレン。ごめん」
「、謝るなよ」
エレンの頬を涙が伝ってるのが、ボンヤリと見えた。やっぱり、泣いてるじゃないか。
「いいんだ、知ってたから」
にじんでるけど、エレンが微笑んでるのが分かる。あぁ、エレンは本当に私のことを好きでいてくれたんだ。けど、その笑みに答えられない。だって私の答えはもう決まっている。誓ったはずだ、あの日の夜空に。ミサンガに。
「ジャンが、好きなの」
その一言にエレンは何も答えなかった。ただ私の頬をグシグシと服の裾で拭った。まだ視界がはっきりしなくて前を向けない私の手をとってエレンは歩き出した。私の手を包む大きな手は、決して”弟”みたいな手ではなかった。
今までの私の軽率な台詞に彼はどれだけ傷ついただろうか。きっとその謝罪は、届いたはずだ。許してもらおうとは、思わない。なんなら罵られたっていい。けれど彼は、決して私を責めるようなことはしなかった。
「ロゼッタ、ごめんな」
「ううん、エレン、ありがとう」
こんな私を好きになってくれてありがとう。
prev next