複雑な交差線


冗談じゃないって、ほんとに。


ロゼッタのため息は誰にも聞かれることはなく、少し強めに吹く風に流された。真上にある宿舎の屋根くらいの高さの木が風に揺れていて、それはロゼッタの心情を表してるようにも見えた。


まさか、ジャンに誤解されてるだなんて。もう1週間前のことなのにまだ頭から離れない。いや、こんな出来事離れるわけがない。

結局あの後弁解の余地もなくジャンは食堂に戻っていった。大方マルコを待たせていたのだろう。2人は仲がいいから。そのあともジャンは普通に話しかけてきてくれたけど、ロゼッタの心中は話せて嬉しかったことよりも、誤解をどう解こうか、ということの方が重大だった。

しかし、どうしようもない。エレンがジャンたちにきちんと否定してくれるのが1番いいのだろうけど、きっとエレンはそんなつもりでロゼッタといるのではないだろうから少し申し訳なかった。そんなことを考えてるうちに休日はあっという間に訪れた。


「ロゼッタ、何してるんだよ。行こうぜ」

「エレン、待ってよ」


出口前で待ち合わせをして、少し先に出てしまったエレンを追う。弟みたいだとは思ってたけど、こうして並んで歩くと身長差もあって、男の子なんだなぁ、と感じてしまう。そんなふと感じたことでも、頭の中に浮かんできてしまうのはあの人で。

私は何をやってるんだろう。今はエレンと出かけているのだから失礼ではないか。ロゼッタがそんなことを思ってるとは露知らずエレンは例の糸がある店への道順を口にする。


「えっと、ここを右に曲がったら・・・あった!」


意外と近いことに驚いた。もっと奥に行くものだと思っていたが、町の入口に近い所にあったようだ。


「なんだか、可愛いお店だね」


白い外装に、中はいろんな手芸道具が売ってある。手芸屋さんだろう。雰囲気も小ぢんまりしていて、ロゼッタのお気に入りのお店とどことなく似ていた。


「こんなに糸がいっぱいある!こんな色初めて見たよ」


刺繍糸はもちろん、布や毛糸といった素材もかなりあるようで、ロゼッタは目が回るほどあちこちを見回した。


「・・・ふっ」

「ん?どうしたのエレン」

「いや、なんか。ロゼッタが可愛いなって思って」


カッと顔が熱くなるのが分かった。エレンってこんな子だっけ?こんな優しい目で見られて照れないわけがない。


「ちょっと、やめてよ恥ずかしい!」

「あはは、照れた」


何なんだ今日のエレンは。本当にどうした。


「もう、からかわないでよ。誰だって照れるよそんなこと言われたら」

「ふーん。じゃあさ、ジャンに言われたら、どうする?」


驚いて糸をさわっていた手を止めてエレンの方を向く。今、何と?何も言えずにただ目を見開いてるロゼッタを見て、エレンは焦ったように手を振った。


「あ、別に困らせるつもりじゃなかったんだ・・・。変なこと聞いて、ごめん」


もしかしてエレンも気づいてる?アニのように。私ってそんなに分かりやすいんだろうか。


「・・・」

「・・・」


なんだか気まずくなってしまった。ロゼッタは欲しい糸を手に取ってレジのお姉さんに声をかけた。エレンはずっと窓の外を眺めているだけだ。


そういえば、エレンは何をしにきたんだろう。まさか、この店の場所を教えるためだけに着いてきてくれたとか?もしそうだったら申し訳が立たない。

せっかく貴重な休日を費やしてついてきてくれたのに、こんな雰囲気にしてしまうだなんて。いや、質問をしてきたのはエレンなのだけど、きっと私が流せていればこんな状況にはならなかったはずだ。


「ごめんねエレン、待たせちゃって」

「いや、大丈夫」

「エレンは何か用事とかある?付き合うよ」

「・・・」


淡々と交わされる会話。そこにはやっぱり気まずさがあった。ロゼッタの質問にエレンの足がピタリ、と止まり、どこか行きたいんだろうかとロゼッタも足を止めてエレンを見た。


「・・・、ロゼッタ」

「え、な、何?」


急に名前を呼ばれたかと思うと両肩をガシリと掴まれた。町中なのに。恥ずかしくてエレンの両手をはずそうとしても力の差ではかなわない。


「ちょっと、どうしたの?エレン」

「ロゼッタってさ、ジャンのことどう思う?」


顔を覗き込めば真剣な顔をしたエレンがようやく口を開いた。今日はなぜジャンのことについて聞いてくるのだろう。


「どうって、その、」

「やっぱり、好きなんだよな」


やっぱりばれていた。何も言わずに首を縦に振るとエレンは少し悲しそうな顔をして両手を離した。とりあえず歩こう、とエレンを促すと渋々、という感じで歩き始めた。


エレンの考えてることが分からなくて何も話せない。先ほどのことは一体何だったのだろうか。ただの確認?それにしては真剣に見えた。


ただ肩を並べて歩いているとエレンが呟くように言った。


「俺さ、ロゼッタのこと、好きだ」

「え・・・・?」

「初めて喋ったときあったろ。あの頃から、ずっと好きだった」


驚きで目を見開いてエレンを見る。彼の顔は真剣そのもので冗談を言ってるようには思えない。


でも、そんないきなり、


いつの間にか私は歩くことを中止していた。


気づかなかった彼の想いに、足がすくんだ気がした。





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