「ねぇ、ロゼッタ。あなた、エレンと付き合ってるの?」
「・・・何の話?」
いつもの朝食の風景。いつもと変わらない。そう、変わらない。ミーナの唐突な質問に、向かいに座っていたエレンがむせた。当たり前だ、いきなりそんなあり得ないことを言われるのだから。
「だって最近はよくエレンと一緒にいるじゃない。ミカサの顔見てみなさいよ」
「・・・うーん」
確かに最近ミカサの視線は痛い。彼女とエレンは幼馴染らしいから余程大切に思ってるんだろう。でも私は別にエレンの悪い虫でもなんでもない。
「結構前にミサンガの作り方教えてあげたらさ、そっから色々手芸教えるようになっちゃって」
「エレンって手芸好きだったのか!?」
なぜかエレンの隣にいたコニ―が大きく反応した。エレンはというと、まぁ、な。と歯切れの悪い返事をしながらパンにがっつく。あぁ、そんな勢いで食べるからパンくずが落ちちゃう。ほら、もう。
「なんていうか、弟みたいだよね、エレンって」
そう、それは初めて話した日から思っていた。精いっぱいなにかにしがみ付いて自分の力にしようとする。一生懸命になってるのが可愛くて、つい応援したくなってしまうのだ。
「なーんだ。そういうことだったのね」
つまらない、というように食事を再開したミーナを横目で見る。
「逆に、どうして付き合ってるように見えるのか分からないよ」
「そりゃ、休みのたびに2人で食堂で楽しそうに話してるしさ、
私だって入りにくいわよあんな雰囲気の中に」
えー、そうかなぁ。なんて最近普通に食べれるようになったニンジンの欠片をつついて更に小さくする。確かにここ最近ロゼッタとエレンは食事も一緒にとっていたし、休日は手芸について教えることもよくあった。
たまにエレンが絶対調査兵団に入るんだ、と真面目に語ることもあって、なんだか大きな夢を持つ弟の話を聞いてる気分になっていたんだけど。
エレンがロゼッタに対してどういう感情を抱いてるかは知らないがきっとエレンも同じような認識だろう、とロゼッタは思っている。
「なぁ、ロゼッタ。今度の休日は町にいってみないか?」
「え、町?」
これには驚いた。エレンとはミーナ達との約束がない日に食堂で手芸をして楽しんでるだけだったので2人で町になど行ったことはなかった。
「こないだ、きれいな糸を見つけたんだ。ミサンガが作れそうなやつ」
「へぇ、刺繍糸?少し切れかかってたし、丁度いいかも」
「よし、じゃあ約束な」
やっぱりエレンの笑顔は眩しい・・・
「なぁに、エレンとデートするの?」
「違うよ、からかわないで」
先ほど説明したばかりなのにからかうミーナを軽く流してロゼッタは片づけを始めた。
片づけ終わって後ろを向くと人が立っていたようで、振り向きざまに腕が当たってしまった。
「、きゃ」
「うぉ、すまねぇ」
ジャンの受け皿に残っていたスープがスカートに少しかかってしまった。でもそんなことよりジャンがスープを残すだなんて、とか体調が悪いんだろうか、とか考えてしまう私は重症だろうか。
「やべ、シミになるな。洗いに行くぞ」
「え、あ、うん」
ジャンのテキパキとした動きによって、スープの汚れはすぐに落されたけど、少しシミになってしまったようだ。
「あー、ほんっとにすまねぇ!」
「いいよこのくらい。洗えば落ちるよ」
「いや、何かさせてくれ。何でもいいんだ」
気にしなくてもいいのに、というロゼッタにジャンは引こうとしない。なんなら勉強も見てやるぞ、と言われて少しムッとするけど、実際彼の方がロゼッタより成績が上だから何も言えない。
でも、もしかしたらジャンと2人になれるチャンスかもしれないし、なんて。
彼の好意を利用して、嫌な子だな、私。
「あ、じゃあ今度の休日はどうだ?」
いいよ、と言いかけた口を閉じた。だめだ、次の休日はエレンとの約束がある。
「あ、ごめん、次はちょっと用事が入ってて」
「・・・エレン、か?」
「うん、町に出かけることになったの。ごめんね、」
「いや、いい。知ってた」
・・・あれ、おかしいな。あの場にいなかったジャンがエレンと出かけることを知ってるなんて。ミーナやコニ―に聞いたのだろうか?いや、自分たちは片づけを終えてすぐこっちに来たはずだ。そんな時間なかった。
「なんで、知ってるの?」
私の問いかけにジャンがギクリと肩を震わせた気がした。
「あぁ、いや。最近お前ら仲良いから、そうだろうなと思っただけだ」
朝のミーナに言われたことと同じだ。やはりみんなから見たら最近のエレンと私はベタベタしすぎたかもしれない。少し自重しよう。ジャンにまで付き合ってるなんて誤解されたらとんでもない。
「ま、お前らお似合いだと思うけど」
「・・・・え?」
「なんつーか、エレンとロゼッタが2人でいると近づき難いんだよな。オーラが出てて」
「え、ま、」
「でも程々にしとけよ、人目考えろって」
シミの件はまたいつかな、とジャンは急ぎ足で去ってしまった。
「どうしよう、遅かった」
近づき難い、人目考えろ、お似合い、
「はは、どうしよう」
とっくに誤解されていたらしい。こんな私には、自業自得という言葉がお似合いだ。