空が傾き始めると、街に出ていた人がどんどん帰ってくる。ミーナ達もその集団に混じって帰ってきたため、急いで走って行ってお昼も取らずに作ったミサンガを渡す。もちろんミサンガのジンクス付きで。
「え、なにこれ、すっごく可愛いね!」
「ロゼッタ、ありがとうございます!大切にします!」
やはり女の子からは好評だ。兵士といっても可愛いものは好きなのだろう。気に入ってくれてよかった、と全員に渡し終えて一息つくと、宿舎を出てお目当ての人物を探す。
「あ、いた。エレン!」
目当ての人物は珍しく1人で歩いていた。いつもはアルミンやミカサがいるからこれまた意外だ。
「あ、これ朝のやつか」
「うん、きれいにできたでしょ?」
「あぁ、ありがとうな!」
エレンが本当に嬉しそうでよかったけど、男の子もこういうのが好きなんてロゼッタにとっては意外だった。
「今度作り方教えてくれよ」
「うん、いいけど、そんなに気に入ったの?」
「あ・・・う、ん。てか、その、ロゼッタといたいから・・・」
「え?ごめん、もう1回言って」
「あ、いや、なんでもない」
特に照れるような台詞を言ったつもりじゃないのだが・・・。顔を真っ赤に染めるエレンを不思議だな、と見つめていると後ろから声がかかった。
「おい、エレンこんなとこにいたのか。もう夕食の時間だぞ」
「ジャン・・・分かった、今行く。ロゼッタ、ありがとな」
「いいよ、喜んでくれてよかった」
笑顔で見送ったつもりだけど、それもひきつってしまう。ロゼッタは右手に持っているものを見てため息をついた。
やっぱり、緊張しちゃって渡せない・・・。
黄色と薄いピンクが一緒に編まれているミサンガは、私の瞳と気持ちの色と同じでなんだか独占欲にまみれてる気がして。ジャンは私の物じゃないし、彼女でもないのに。
「おい、ロゼッタ。いつまでそこに突っ立ってるんだよ」
結構な時間がたっていたらしい。とはいっても1,2分だとは思うけど。しかし、なぜジャンは戻ってきたのだろう。右手に持っていたものを咄嗟に隠して平静を装う。
「あ、その、夕日がきれいだなって」
「あぁ、そういやお前いつも空眺めてるもんな」
見られてたのか。思わぬ台詞に乾いた笑いをもらす。朝、昼、夕方、夜。それに季節でも変わる空の色がロゼッタは大好きだった。しょっちゅう見ていたから不思議に思っていたかもしれない。少しだけ恥ずかしい。
「お前の目も、夕日に照らされると反射して太陽みたいになるな」
「・・・は、」
本気で言ってるのだろうかこの男は。好きでもない女にそんなことを言えるなんて、意外と女の扱いが上手いのかもしれない。
・・・いや、私のことを特別な女と思ってない証拠だろう。ミカサとの反応が全然違うから、多分そういうことなんだろう。そうだ、ジャンはただの友達だ。だからこのミサンガもジャンにあげるのは別に不自然なことじゃなくて、エレンにもあげたのだから、別に変じゃないはず。
「まぁ、今から夕食の時間だしまた後にしろよ。ほら行くぞ」
「まって、」
さっさと歩いて行ってしまおうとするジャンを急いで呼び止める。まだ何かあるのか?と言うような表情で振り向くジャンに、ロゼッタは精いっぱいの勇気を出した。大丈夫、大丈夫。
「あの、これ、今日作ったんだ。あ、いや、みんなの分!友達に、これ、作ったの!」
しどろもどろになりながら話すけど、言いたいことは伝わっただろう。
「ジャンにその色は似合わないかなって思ったけど、捨てるのはもったいないし、だから、あげる!」
あぁ、またこんな言い方をしてしまった。
ジャンは怒るだろうか。いや、お世辞でも褒めてくれるだろうか。反応が怖いけど、それと同じくらい気になる。恐る恐る顔を見ると、ジャンはただ手渡されたミサンガを見つめていた。
「これって、ミサンガってやつか?」
「え、あ、うん。そうだけど」
「切れたら願いが叶うってやつだよな」
なんだ、知ってたのか。ジャンがそんな女の子らしいことを知ってるだなんて意外で、ちょっと笑った。
「なんで笑うんだよ」
「はは、いや、なんでもない」
おかしなやつだなーと、こっちを見るジャンに怒ってる様子は見られなくて少し安心した。
「お前がこんなに器用だとは知らなかった。まぁ貰っといてやるよ。ありがとうな」
なんて頭を撫でられる。こっちの気も知らないで。ジャンの込める願いは分からないけど、その代り、ちょっとだけ意地悪。そのミサンガに、私の願いを込めさせてください。
先を行くジャンの背中に、小さくつぶやいた。