大切な人へ


「ロゼッタ、本当に行かないのー?」


不満げに問いかけたのはミーナで、その隣にいるクリスタも不思議そうな顔でロゼッタを見る。それもそのはずだ。今日は訓練も何もない、つまり休日というわけだ。大体の訓練兵は男女問わず、外に出て町などに出かけるのだ。そして女の子は女の子らしくアクセサリーや可愛らしい小物などを買ったりするのだが、ロゼッタは前回の休日に買ってきた素材で作りたい物があった。

そのためにミーナ達の誘いを断って今に至る。


「うん、本当にごめんね。でも休日じゃないと作る暇ないと思ってさ」

「それはいいけど・・・きれいな色の糸ね。何作るの?」

「えへへ、内緒ー」


ロゼッタの手元には水色、緑、白など色とりどりの糸がある。ミーナは不思議そうに首をかしげたが時間が来たようで宿舎から出て行った。おそらく今宿舎の中にいるのは10人程度といったところだろう。ほとんどの人が外に出ているはずだ。ならば、宿舎より広く、なおかつ自由に出入りができる食堂の方が作業しやすいだろう、と道具を持って移動した。


「・・・誰もいない、ね」


予想通り誰もおらず、ロゼッタは入口から入ってすぐ右の席に座った。特別誰かに見られて困ることはないが、静かな場所で作業するのが好きなロゼッタにとってこんなに都合のいい場所はない。今日は何本作れるかな・・・と外を見ながら考えたが作れるだけ作ればいい話。さっそく作業を開始した。


「クリスタ・・・はきれいなイメージだからなぁ・・・青?うん。青と水色と白かな」


綺麗なグラデーションが糸で作られ特殊な方法で編まれていく。その作業に夢中で外から入ってきた人物に気付かなかった。


「ロゼッタ?何やってるんだ?」

「あれ、エレン?」


それはロゼッタと仲がいいメンバーの1人のエレンだった。ジャンやアルミン達と外に出かけると思っていたので彼が残っているのは意外だった。


「それ、何だ?きれいだな」

「あ、これ?ミサンガって言うんだ。可愛いでしょ」


先ほど完成した黄色とオレンジが編まれたアクセサリーを見せる。元気なイメージのサシャのために作ったのだ。


「へぇ、すごいな、こんなの作れるなんて!」

「コツを掴んだら簡単だよ。お姉ちゃんにね、よく作ってもらってたの」


調査兵団に所属している姉とは手紙のやりとりをしていて、たまにミサンガもはさんであったりする。手先が器用で強くて優しい姉をロゼッタは本当に尊敬していた。


「でも、ほんとにすごいなぁ、これ」

「褒めたって何も出ないよ。何、エレンも欲しいの?」


冗談で言ったつもりだったのだがエレンは思いのほか食いついてきた。


「これ、誰かにあげるために作ったのか?」

「え、うん。自分で持ってても仕方ないから・・・」

「誰に?」


なぜそんなことが気になるのだろう・・・。隠す理由もないので大体の予定を教える。


「えっと、サシャでしょ?クリスタ、それにアニにミーナ・・・」


何名かの名前を挙げるとエレンは意外だ、と言うように瞬きをした。


「・・・ジャンには、やらないのか?」

「え、・・・な、なんでジャン?」


あまりの不意打ちに顔が熱くなる。咄嗟に下を向いたけど、エレンにバレれないかな・・・。エレンはそんなロゼッタに気付かず、サシャの完成したミサンガを手の平で弄んでいた。


「なぁ、俺にも作ってくれないか?」


パッと明るくなったかと思うとロゼッタも予想外のことを言いだした。その顔は期待からか、輝いてるように見える。


「え、エレン、男の子でもこういうの欲しいの?」

「あぁ、俺は欲しい!」


なんて笑顔で言うものだからロゼッタも断れない。うん、わかった。と了承の意を示すとエレンは子供っぽくはにかんだ。エレンの笑顔はなんだか母性本能をくすぐらせて、こっちまで暖かい気分になる。


「エレン、ミサンガはね、手首や足首とか、常時身に着けるものなんだ。訓練の時邪魔だったらはずしちゃうかもしれないけど。つけるときに願いを込めて、糸が切れたときにその願いが叶うっていうおまじないがあるんだよ」

「そんなのがあるのか」

「うん。だからこれは、大切な人に贈るものなの」


そっか、なんて微笑むエレンはさっきのように子供っぽい笑顔ではなかった。けれどロゼッタの頭の中はすでに1人の人物で支配されていた。



あの人もこういうの貰ったら、喜ぶんだろうか。




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