避難者の集い



「あぁ、分かる!ベルトルト、無口だけどカッコいいよね!」


また、これか。

年頃の女の子の話題というのは、大抵恋バナというやつだ。ロゼッタはそういう話が苦手でいつも逃げようとするのだが、特にこの手の話が大好きなミーナから逃げられるはずもなく、毎回参加するはめになるのだ。



「で、ロゼッタ。あんたいつもいつも受け流すけど、実際の所どうなのよ!」

「え、何の話?」

「しらばっくれないで!好きな人、いるでしょー?」


ジャンです!だなんて言えない、ゼッタイ。ミーナに話した日には男子の方にまで伝わるのなんて目に見えてる。あぁもう、そんなに注目されたって言わないから!


「いや、いないよ!本当に・・・」

「えぇ、うーん。でもさ、最近ジャンと仲良くない?」


ドキッとしたけどここで顔に出したら終わりだ。きっと洗いざらい話すまでベッドに向かうことすらできないだろう。


「ジャンはたまたまペアになったときに少し話して・・・そう、気が合っただけなの!」


ふーん、だなんて信用してない目でミーナに見られるけど、これ以上聞いても意味ないと判断したのか他の話題に移っていった。

ハンナの話題で持ちきりになってる間にそっと抜け出して外に出る。消灯時間は過ぎているけどここなら教官も来ないはず、と宿舎の裏に出ると予想外なことに先客がいた。その人物は特になにをするでもなく、ただ座って空を眺めているように見える。あれは・・・。


「アニ。こんなところにいたんだ?」

「・・・ロゼッタか」


アニもああいう類の話題は苦手なようで、いつもいない気がする。そう思ってたらこんな所に避難してたのか。私もそうすればよかったな。今回もあの雰囲気にあてられて、部屋を出て来たのだろう。苦笑いを浮かべながら近づくと、アニは少しだけずれてロゼッタの座る場所を作った。


「皆ほんと、あぁいう話好きだよねぇ」

「あんたも災難だね。いつも巻き込まれてる」

「逃げるのが下手でさ」


私の方にチラッと目線をくれただけでその目はまた夜空をとらえる。ロゼッタもつられて夜空を見上げると、濃紺に散りばめられた黄色が輝いてるのが見えた。


「あんたの目も、あの月みたいな色してる」

「え、ほんと?確かに黄色だけど・・・月とか星とか好きだから嬉しいな」


照れたように笑うロゼッタをアニはなんの表情もなく見つめた。何かついてるのかな?顔をペタペタ触るロゼッタになぜかため息を漏らす。


「あんたさ、ジャンのことが好きなんだろ?」

「うん・・・は、え?」


誰にも言ってないはずなのになんでアニが知っているんだ。驚きと恥ずかしさを隠せないロゼッタは目をパチクリさせて視線を泳がせている。


「見てれば分かる。ニンジンくらい自分で食べなよ」

「な!!・・・見てたの・・・」


誰にも見られてないとは思っていなかったけど、やっぱり恥ずかしい。赤くなった頬を隠すように手で包むと、冷たくなった手のひらにじんわりと暖かさが伝わる。あぁ、これ以上ないくらい恥ずかしい。


「告白、はしないの?」

「ジャンはミカサのこと好きなんだもん。振られてるも同然だよ。それに、今の関係のままで満足なんだ。壊したくない、から」


それに、伝えてしまったら一番困ってしまうのはジャンで、きっと優しいジャンのことだから、断り方もすごく考えてくれるんだろう。なんだか、それは申し訳ない気がした。私が勝手に好きになってるんだから、それで彼を振り回したくない。恋が叶うのならそれが一番いいのだけど、それが無理ならば、できるだけ彼の負担になりたくなかった。


「そっか・・・」


アニは1度目を伏せてからまた上へと視線を向けた。先ほどよりも周りの光が少なくなったせいか、輝きの少ない星もきれいに見える。それにしても、アニがそんな話題を切り出してくるなんて、意外だ。そんなことを思っていたら、アニは立ち上がって私を見下ろした。


「叶わない恋をするのは、罪じゃないよ、ロゼッタ」

「・・・え?」

「あんたが何に対して罪悪感抱いてるのか知らないけど、もっと欲張っていいと思う」

「どういう、意味?」

「だから、それ以上の関係を期待してもいいって言ってるの」


それ以上の関係、つまり、恋人、とか?そんな、そんな、考えられない!


「ジャンがミカサを好きなのかどうかは知らないけど、あんたはジャンが好きなんでしょ?」


確かに、好きなら、友達以上の関係を望むのが普通。

だけど


「だけど、振られるって分かってるのに告白したって、」

「振られるって、何、ジャンが言ったの?告白されても振りますよって」

「そんなわけ、」

「だったら、あんたにもチャンスはあるんじゃないの?」


確かに、そうだ。今のジャンが私をどう思ってるのかは分からないけど、それが分からない以上、確かにチャンスはあるのかもしれない。


「諦めてこうやって悲劇のヒロインぶってるあんたより、素直に照れたりしてるあんたの方が、あたしは可愛いなって思うけど」


驚いた。アニがそんなことを言うなんて。他の人に興味がないと思っていたけど彼女は周りをよく見る人だったんだ。そんな驚きと同時に、胸が暖かくなっていく感覚。建前じゃなくて、本当に心からそう思って言ってくれてるんだなと思うと、嬉しくて。


「ありがとう、アニ。私、頑張ってみようかな」

「・・・ん」


ちょっと勇気を出した私に、アニは微笑んでくれた。




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