嫌なことも忘れて



「ロゼッタ、朝よ、起きて!」

微睡んでいる所にミーナの声が聞こえて、しぶしぶ起き上がると皆はもう支度をはじめていた。あれ、もうそんな時間?ロゼッタが寝ぼけてそんなことをつぶやくとミーナはあきれたようにため息を吐いた。


「もう、今日は朝から対人格闘技の授業でしょ?早く支度済ませなよ。」


すっかり忘れていた。座学ならこの時間に起きてもなんら問題ないけど、対人格闘技などの場合制服を着なければならないし、時間がかかる。あぁもう、面倒だ。

元はと言えばミーナ達が悪いのだ。眠たいというロゼッタを無理やり引っ張って、やれ誰がかっこいいだの付き合いたいだの。

私にはそんな人いないから無関係だというのに。

結局一言もしゃべることなく日付が変わってしまったっけ。

その結果がこれ、寝坊なのだ。


「なんでもっと早く起こしてくれなかったのー?」

「起こしたわよ!あんたが起きなかったんでしょ。二度寝なんて言って」

ぶすっとした顔をミーナに向けると、彼女はご立腹の様子でそう言った。
けれど覚えてない。全く覚えてない。


けどもうちょっとしつこく起こしてくれてもいいじゃないか、なんて言ったらミーナの雷が落ちそうなので黙っておく。

着替えて寝癖を直そうとするとそんな時間ないわよ!なんてミーナが腕を引っ張るものだから寝癖はそのまんまだ。恥ずかしい。

食堂につくとほとんどの人がもう食事を始めていた。

空いてる席もほとんどなくて、やっと見つけて座ると前に座っている人が「げっ」と声を漏らした。

誰だこんな失礼な奴、と正面を見てみるとそこにはジャンがいた。やっぱりお前か、と睨みつけると何故か気まずそうに視線を彷徨わせてる。

ロゼッタはこの数か月、特にジャンと話すことなく過ごしていたが、なんとなく自分のことを嫌っているのだろうなと感じていた。

対人格闘技の相手を決めるときに出くわすと分かりやすいくらい避けられるし、座学も近くに座ったことがない。いや意図的に離れてるの。そのくらい分かる。自分のことを嫌ってる相手に近づく理由もないと、ロゼッタも近づくことはしなかった。

嫌われるきっかけなんて、ミカサへの失恋の時バカにしたこと以外思いつかなかった。実際それ以外に何かをした覚えはない。しかしそれも最初にロゼッタをバカにしたり食事を邪魔したりしたのがいけないんであって、それがなければロゼッタだって失恋を笑うことなどしなかった。


「あら失礼。でも他に空いてる席がないの」


ジャンはそんなロゼッタに文句を言うでもなく、また食事に目をやった。彼の隣にいるコニ―はニヤニヤしている。

ロゼッタも食事の時間の残りを確認してから食事に手を付ける。なんとか間に合いそうだ。何を話すでもなくもくもくと食べていると、ジャンが不意に正面に目を向けた。


「なぁ、ロゼッタ」


驚いて僅かに目を見開いた。ジャンからロゼッタに話しかけることなど、初めてだったから。ロゼッタは戸惑いを隠しながらジャンに目を合わせた。


「今日の対人格闘技、ペア組まないか?」

「嫌よ。私真面目にやるもの」

「な、俺も今日は真面目にやるって!」


ムキになってるのだろうか。それにますます驚く。まさか話しかけてくるだけでなく、誘いにまで出るとは一体どういう風の吹き回しだろう。それとも何か悪戯を思いついて誘っただけなのか。こいつの考えてることはイマイチ分からない。だからと言って、真面目にやるのなら断る理由もないけど。


「うん。じゃあいいよ。よろしくね」

「お、おう」


ジャンは食事を既に終えていたみたいで、「またな」と声をかけると食器を片づけにいった。余裕で間に合うだろうと思ってたのにロゼッタは自分が思うほど食事に手をつけていなかったようだ。それに気づいたのは鐘が鳴ってからで、一口分だけ余ってしまったパンを急いで口に詰め込むと大ざっぱに咀嚼して飲み込んだ。喉に詰まりかけたパンを水で流し込んで落ち着いたところに、いつものようにエレンが話しかけてきた。


「ロゼッタ、対人格闘技ペア組もうぜ!」

「あ、エレン、ごめんなさい。ジャンと組んじゃったの」

「ジャンと・・・?そっか。それは仕方ないけど、寝癖くらいちゃんと直せよ」

「・・・あ、忘れてた。」


寝癖がついてることも忘れて、私は何を考えていたんだろう。軽く撫でつけながら、食器を片づけるために席を立った。



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