ふとした疑問



初日は入団式が終わるとすぐに自由行動になり、同部屋で話すようになったクリスタと共に食堂に来て食事をとっていた。

どうやら超大型巨人が5年前に現れたというシガンシナ区出身のエレン・イェーガーへの質問で大勢がにぎわっているらしい。興味がない話ではないが、お腹が空いて仕方ない今はパンを咀嚼するので精いっぱいだ。


「俺は正直者なんでねぇ。そこの女みたいに、心底怯えながらも勇敢気取ってるやつらよりはよっぽどさわやかだと思うがなぁ。」


本当にそれに一生懸命だったから大人しくしてたつもりなのに、ジャンがいきなり私を指差したのに驚いて思わず手を止めた。

ほら、指さしてせいでみんなの視線が集まってくるじゃないか。あんまり目立つのは好きじゃないのに。この男は目立つのが好きなんだろうか。

・・・こんなに視線があるとさすがに食べ辛い。

私の食事の邪魔をした当の本人はエレンと一触即発な雰囲気になっていた。が、それも食事の時間終了の鐘の音で終わりを告げたようだ。

めでたしめでたし・・・じゃない。


私はまだ食事を4分の1ほど残していた。もったいない。それもこれもあいつのせい。

他の人間がしたことならば特に気に留めることもなかった出来事だが、第一印象という物は大事だ。ロゼッタの頭にはジャン・キルシュタインという人間は嫌な奴だとインプットされている。


クリスタに止められたけれど「女にも戦わねばならない時があるんだよ」と悟ったような口調で言ってみるとクリスタは苦笑いはしたけど止めることはしなくなった。

周りを気にしながらパンを一つどこかに持っていくクリスタを横目にジャンの方へ向かう。と、さっきまでエレンといた女の子・・・確か、ミカサ。その子に話しかけていた。柄にもなく頬を赤く染めてる。これはもしかしなくても・・・。


一目ぼれと言うやつだろう、口説いていたのかは分からないが、見る限り軽く受け流されているようだ。ミカサがエレンの元へ駆け寄ったのを見て、まるで世界が終わるとでも言ってるような絶望的な顔をしている。

ものすごく笑えるけど我慢我慢。人の不幸を手放しで喜ぶほど私も鬼ではないのだ。ここは慰めてやろうじゃないか。


「・・・失恋してやーんの・・・フフッ」


おっといけない。つい本音が・・・。
しばらく固まって動かなかったジャンが、ゆっくりとこちらに目を向ける。


「なんだ・・・涙目で調査兵団に行くとか言って強がってたチビか」


声をかけたのが私だと知ると途端に余裕そうな顔に戻る。チビとは失礼じゃないか、一応平均程あるのに。ムッとしたロゼッタを気にすることなくそのまま近づいてきたかと思うと、ロゼッタの肩に両手を置いて勢いよく何かをぬぐった。


「は、別に強がってるわけじゃ・・・ちょ、何!」

「チビのロゼッタはもう寝る時間なんじゃないのか」

「なっ、ちょっと、人の服で何拭ったのよ!」

「人との・・・信頼だ。」

「はぁ?」

真顔でそんな意味の分からないことを言われれば、こちらだってどう反応していいのか分からない。そんなロゼッタにそれ以上何を言うでもなく、ジャンは食堂へと戻っていった。本当に、何だったのか。

さて、自分も食堂へと戻ろうとしたその時、先ほどのジャンの台詞を思いだしてピタリとその足を止めた。

「そういえば、私の名前覚えてたんだ。」


私も彼の名前を覚えているし、意外と覚えてるものなのかな。
あ、でもあの人の名前知らないな。

そんなことを考えてる間もロゼッタはずっと食堂の入口に突っ立っていて、用を終えたらしいクリスタが声をかけるまで一ミリも動いてなかった。



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