「そういえば、」
104期の間を沈黙が破って、ほんの数分。コニ―が思いだしたように呟いた。小さな声だったがしっかりと、ロゼッタの耳にも届いた。膝にうずめていた顔を上げてユミルを横目で見ると、鋭い目はコニ―を食い入るように見ていた。
「ずっと気になってたんだが・・・俺の家に、巨人がいたんだ」
話を聞いてみれば、コニ―がその壊滅してしまった村に駆け付けた時、コニ―の家には自力では動けない巨人が横たわっていたという。想像しようとすればするほど巨人同士で肩を組むところだとか、巨人が巨人を運んでる構図しか思いつかなくて、訳が分からなくなってしまう。
「何それ、その巨人どうやってコニ―の村まで来たの?」
「知らねぇよ・・・俺が聞きてぇよ、そんなん」
「あぁ・・・そっか、そうだよね」
それが分かるならば、そもそもそれが疑問として残ることもなかっただろう。しかし、巨人が肩を組んだりするのは恐らく・・・ありえない。そりゃあ、最近はそんなありえない事例が多発してるけれど。それはあくまで知性巨人の介入があってそうなってしまったわけで。
「コニ―、その巨人って無知性なんでしょ?エレンみたいな巨人とは、違うんだよね?」
「あ?あぁ。歩けはしなかったようだが、知性があるようには見えなかったな。何でそんなこと聞くんだよ。何か知ってるのか?」
「あぁいや・・・。ただ、私たちが知ってるような巨人が肩組んだりはしないだろうなって」
「何言ってんだお前」
こんな時に何をふざけてるんだと、この場にいる全員に言われている気がした。決してふざけたわけでなくロゼッタが精一杯頭をフル回転させて考えた結果なのだが。
「知性なんか、ありそうになかったんだがな。でもその巨人、なんだか母ちゃんに似てたんだ・・・」
ゴクリ。誰かが生唾を飲む音がした。こんな場所だ。どんなに小さな音でも大げさに響く。それが余計に不気味だ。
「コニ―、まだ言ってんのか。お前は」
「バッカじゃねぇーの」
ライナーの声を遮ったのは、先程の会話以来沈黙を貫いていたユミルだった。
「ダハハハ!お前の母ちゃん、巨人だったのかよコニー?じゃあ、なんでお前はチビなんだよ、オイ!お前そりゃ・・・辻褄が合わねぇじゃねぇか!お前が馬鹿だって知ってたけどよ、こりゃあ逆に天才なんじゃねぇか?なぁ!ダッハハハ!」
この場に似つかわしくない声が、塔全体に響いた。ユミルがこんな風に話したてることが今まであっただろうか。ユミルの隣にいたクリスタでさえ、口を半開きにして驚いている。私たちでさえそんな様子だから、話の中心であるコニ―はたまったものじゃないだろう。その調子でからかわれ続けたコニ―はもう考える気も失せたようだ。ただでさえ疲れ切っている身体に、追い打ちをかけられた気分だ。塔に入ってからは何もしてないはずなのに。
「ねぇ。明日も早いし、早めに休息を取ってた方がいいんじゃないかな」
正直、眠気も限界の所まで迫ってきている。いくら緊迫している状況でも、眠気には勝てそうにない。それに、今休んでおかなければ明日の任務を確実にこなせる自信もない。そう提案してみれば、やはり異論を唱える者はいなかった。やはり、皆も疲れているんだろう。見張りを上官に任せ切ってしまって申し訳ないけど。
「ねぇクリスタ。一緒に、寝てもいい?」
「いいよ、ロゼッタ」
膝を使ってクリスタの隣まで動くとクリスタはロゼッタが入れそうな空間を作ってくれた。
「誰かとくっついて寝ると、暖かいね」
「フフ、ジャンのことでも思いだしたの?」
「どうかな、一緒に寝たことは無いから。でも、会いたいなぁ」
最後に共に過ごした日が、随分と昔に思える。