「何が、言いたいんですか」
「何のことかな」
「目的はなんです。私を追い詰めて、何がしたいのですか」
動揺はさほどしなかったものの、ナナバの口から出てくる姉の名に、少なからずロゼッタは追い詰められていた。軽く問いただして見ても、ナナバさんはいつもの柔らかい目線で私をチラリと見るだけ。
「気に障ったなら謝る。でもそんなつもりは無かったんだ」
それならば何のつもりだったのだと、問いただしたい気にもなったが、申し訳なさそうに言うナナバさんが嘘をついているとは思えなくて。そもそも、ナナバさんを責める権利は私にはない。姉を冒涜されたわけでも、実際にそこまで気に障ったわけでもない。ただこの状況に、少し苛立って八つ当たりしたようなものだ。
「いえ、気に障ったわけではありません。でも少しだけ、気になったものですから」
「・・・そうか。さて、そろそろ松明を準備するとしよう。日が沈む前にね」
視線を太陽に向けてみると、先ほどまでは少し傾いている程度だった太陽はもう少しで沈む、と言うところまで来ていた。ここまで来たらすぐに沈んでしまうだろう。本当に、暗闇の中で穴の捜索を行うのだろうか。暗闇に弱い巨人ではあるが、もちろん例外もいるわけで。
「穴、中々見つかりませんね」
「しかし、もう結構な距離を回ってるはずだ」
「でも巨人も見当たりませんよ。もしかしたら、穴自体かなり遠くにあるのでは」
「だとすれば既に南班が見つけていそうなものだけど・・・」
不自然なほど、巨人がいない。西側とは言え、かなり穴が開いたであろう場所に近づいているはずなのに。そんな状況に、上官も少し考え込んでいる。
「もう暗い。松明を付けて、馬も走らせるな」
暗闇の中で馬を駆けさせることなど出来ない。馬の蹄の音が静かになって、辺りには鳥や風の音しか聞こえない。ナナバさんも、指示以外の為に口を開こうとはしない。当たり前だ。いつ、どこから巨人が来るか分からない状況で談笑など出来るものか。
「!ナナバさん、前に何かが・・・」
「あれは・・・」
向こうからやってくるいくつかの光に反応したのはクリスタだった。ナナバさんが息を飲む音が、やけにはっきりと聞こえた。
「・・・、お前らも壁を沿って来たのか?」
暗闇の中で、光原は松明しかない。その光でこちらの顔を確認したらしいゲルガーさんが、ナナバさんに問うた。
「あぁ。それで・・・穴はどこに?」
最もな疑問だ。巨人は南からやってきたから穴も南にあるとみてほぼ間違いないはずなのに、ここまではそんなもの見当たらなかった。だとしたら、南班が見つけているはずなのに、なぜ鉢合わせてしまったのか。
「・・・は?」
「、こちらはかなり西から迂回して来たんだけど異常はなにもなかった。だとしたらそっちが見つけたはずでは?」
ゲルガーさんだけではなく、後ろにいたコニ―も驚いてる様子なのが分かった。そんな私もきっと向こうから見れば同じような顔をしていると思う。あの様子だと南班も穴を見つけていないのだろう。どちらも壁の穴を見つけられなかったなんて、そんな、変な話だ。
「見落とした可能性は}
「あり得ない。巨人が出入りできる破壊後だぞ」
少なくとも、どちらかは確実に穴に近づいたはずなのに、巨人1体も見ていない。こんなおかしな話はあるだろうか。巨人が穴を掘って入ってきたとでも?空を飛んできたとでも?ロゼッタは混乱しそうになって、慌てて混乱を振り払うように頭を振った。
「今日はどこかで、休んだ方が・・・」
訓練兵のみならず、上官だって疲労が溜まってきているはず。こんな状態でもう1度確認に行って巨人に出くわせでもすれば、ただじゃ済まないということで休息を選んだようだ。
「あれは・・・」
「城・・・跡か?」
月明かりに照らされて不気味に佇む塔のある城がそこにはあった。どこか変な雰囲気のその城をボウっと眺めていたらクリスタに急かされた。
「ロゼッタ、どうしたの?先輩達行っちゃうよ」
「ううん、なんでもない」
ただ、月が綺麗だと。本当にそう思っただけ。
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