出来るならば、根絶したい感情

もう、あれから何時間経ったのだろうか。見当が付かないわけではないけれど、そんなこと考える暇もなく村から次の村へ、馬を駆けさせていたから疲労さえ忘れてしまいそうだ。


「もうこの辺は壁に近いので人が住んでいる地域はありません」

「そう・・・思ったより早く済んだね」


今の所順調に事が済んでいるように思える。西班の任務はあらかた済んだというわけだ。それでも、問題の本質も見えてない状態なのだけど。


「このまま南下しよう」

「・・・え、」


てっきり私たちも撤収するものと思っていたから、ナナバさんの指示に思わず声を上げた。すぐ近くを走っていたユミルやクリスタも、声こそ出さなかったが、驚いているようだ。


「それは、何故ですか?ここから南には人がいないはずです」

「破壊された壁の位置を特定するのも我々の任務だ。南班だけでやるよりも早いだろう」

「・・・そうですね。分かりました」

「新兵には装備がないんですよ?ここから先には巨人がウジャウジャいるはず。私たちは奴らのおやつになる可能性が高い」


多少不安感を抱えながらも承諾をしたロゼッタの隣で、ユミルが納得がいかないという様子でナナバに言った。ロゼッタとて納得したわけではない。馬に乗ってはいても、今の新兵の状態は先ほど避難を促した村人たちとそう変わりはない。だからこそ今は、上官の指示に従う他ないのだ。


「私たちを、前線から一旦引かせてください」

「ユミル!?」

「ダメだ」


ユミルの申し出は、ナナバによってあっさりと却下された。舌打ちしたくなる気持ちも分かるが、こればかりは受理されるはずがない。何しろ、これでも人手が不足しているのだから。


「何が起きるか分からないんだ。連絡要員は一人でも確保しておきたい。気持ちは分かるが、兵士になった以上覚悟してくれ。この初期対応に全てがかかっている」


ユミルはまだ納得していないという表情だけれど、きっとクリスタが宥めるだろう。今までもそうだった。あの2人には何か、特別な繋がりを感じる。友情でも、愛情でも、なくて。どちらにせよ、私が入り込む隙などない。


「ロゼッタ、考え事かい?」

「え?その、あの、すみません」


こんな状況なのに気を緩ませるなんて、どうかしてる。慌てて気を引き締めるように背筋を伸ばすと、ナナバが小さく笑った。


「君は、本当に真面目なんだね」

「それは・・・そうでしょうか」

「うん。ペトラによく似ている。彼女もきっと鼻が高いよ」


突然出て来た姉の名に、息が詰まる感覚がした。忘れていたわけではない。だけど少しだけ、この話題が出ることを恐れていたのかもしれない。


「そうですか・・・それなら、いいのですが」


ナナバさんは、何のつもりで今、こんな話題を出したのだろうか。それで私が動揺すれば任務に多少問題が起きてしまうかもしれないのに。でもよかった、顔に出すほど動揺はしなかった。


「君は人を、信じ切れるか?」

「・・・は?」

「ペトラは、仲間を大事にする子だったね」


横目でこちらを見たナナバさんの試しているような目とかち合った。


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