何かを捜しているはずなのに

重たい馬具を一斉に持ち出して、それぞれの馬を引き連れて外に出る。この間は5分にも満たなかった。訓練の賜物とも言えるのだが、何よりも今の緊張感がそうさせた。


「あの巨人軍が森に到達したら一斉に離散する!」


前方にいたミケ分隊長が私たちに向かって叫んだ。104期と武装兵で東西南北、それぞれの方向に1班ずつ、4班構成するのだと言う。それぞれの地域に詳しいものが進んで班の案内をする、そういう仕組みらしい。この辺に詳しくない私はどこに配置されるのか、分からない。


「おいロゼッタ、お前も西班に来るだろ?」


隣で走っていたユミルが切羽詰った様子で聞いてきた。班の振り分けは巨人が森に到達するまで。時間がない。


「うん、行く」


私がそう決断した時には、コニ―やサシャ、ベルトルトやライナーも所属班を決めていた。誰もが焦燥感を漂わせている中、コニ―とサシャは一段と焦っているように見える。それはきっと、故郷を心配するあまりだろう。特にコニ―の村は、巨人が来たとみられる南の方向にあると言うらしいから。きっと家族も、残されているはずだ。


「わかっていると思うが、今日は人類最悪の日が更新された日だ!そして人類史上最も働くべき時が今だ!」


奮い立たせるようなナナバさんの呼びかけに、緊張感がより一層高まる。方向転換がいつでも効くように手綱を持ち直すと、「今だ!」と上官の叫びにも似たような声が聞こえた。隣を行くユミルやクリスタに後れを取らぬよう手綱を引いた時だった。


「・・・な、んだあれ」


誰かの呟きが一瞬の静寂の合間に聞こえた。視線の先は森に差し掛かった巨人の大群。ゆっくりと歩いてきていたはずの巨人が、何かを合図にしたかのように一斉に走りはじめたのだ。その異様な光景に、ぶわりと冷や汗が浮いた。


「何、何なの?ねぇ、ユミル、」

「知らねぇよ!喋ってる暇あったら馬を最高速度で走らせろ!」


誰も、上官でさえ状況が掴めていないようだから、この事態はやはりとんでもない事なのだろう。壁を壊されている時点で普通ではないのだが、ここ最近の緊迫状況のせいで、麻痺してしまったように感じる。それでも異常事態には変わりないが。


「ミケさん!?」


104期生が何事かと騒いでいる間にも、分隊長であるミケさんは何か策を思いついたらしい。この隊列から一人遠ざかり、巨人の群れに向かって走り出す。一見自殺行為に思える行動だが、ミケさんはリヴァイ兵長に次ぐ実力者だ。きっと何か考えがあるのだろう。そう、信じたい。


「ロゼッタ、離散の合図が!」

「、分かってる」


西班の先導を取るというナナバさんとヘニングさんの後ろに位置を落ち着かせた。明らかに不安感を露わにしているロゼッタとクリスタを、ユミルが何とも言えない表情で見つめる。3人に比べ上官2人は気を張り詰めてはいるものの、流石幾多の戦地を駆け巡った兵士。今は冷静さが大切なのだと、どこか言い聞かされているような気がして。


「ここをしばらく行くと村が一つあるはずだ。それぞれ分かれて住民に避難勧告を下せ。終わり次第次の村に向かうが、決して別行動を取ったりはするな」

「は、はい。分かりました」


ナナバさんの淡々とした指示に返事をすると、ナナバさんはチラリと後ろにいる私に目を向けた。目が合ったのは一瞬で、すぐに前方に向けてしまったが。斜め後ろから見えるナナバさんの凛とした横顔を見ると、壁外での出来事を思い出して、ズキリと胸が痛んだ。


「ロゼッタ、顔青いよ?大丈夫なの?」

「ごめんね、大丈夫だから・・・」

「どうだかな。ロゼッタ、今は余計なことを考えてる暇はねぇぞ」


分かってる。図星なだけに、ユミルの何もかも見え透いてるような言動に少し苛立った。ユミルの言っていることは正しいのに。鋭い視線とその言動や瞳が、誰かに酷く似ているような気がするけれど、それが誰なのかは思い出せない。きっとそれを考えている余裕も、今はない。


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