望んでいない事だとしても

「マジかよ、ロゼッタに・・・何て言えばいいんだよ」


104期生に待機命令が出た後、別件だということで呼び出されたジャンはアルミンによってとんでもないことを聞かされた。アルミンは、女型の巨人の正体がアニなのではないかと言うのだ。まさか、そんなわけないだろう。そう言いたくても、どこか否定できない自分がいる。どこかで引っかかっていることは確かにあった。


「ジャン、これはまだ皆知らないことなんだ」

「・・・分かってるよ、機密事項なんだろ」


なぜ他の104期生ではなく、ジャンを呼んだのか。それは少し遅れてきて現れたエルヴィンによって説明された。要するに、女型の巨人を捕獲するために作戦を練ったのだそうだが、この作戦人員は100%白だと証明されている人物でのみ行わなければならない、そういうことらしい。つまり、ロゼッタにも言うなということだ。


「彼女には姉がいる。白も同然だが、今の104期の状況は非常に不安定だ。分かるね?」

「あまり派手に動くのはまずい」


下手に刺激して、もし他に人類の敵がいたらこちらが不利になる、そう言いたいのだろう。考えたくもないことだが、現にアニが上がってる時点で、もういつ壁内を崩壊させられてもおかしくないのだ。現状は、かなり厳しい。


「女型め、もう一度削いでやる」


それまでジッと黙っていたミカサがポツリと呟いた。その目は今まで見たこともないような恐ろしい顔で、自分に向けられている殺気ではないのに冷や汗がこめかみを伝う。エレンが一度連れ去られそうになったという話らしいから、こうなってしまうのも無理はないんだが。その時のことを思いだしているのだろうか、唇をギリッと噛むミカサにアルミンが横から柔らかく制する。


「ミカサ、今は・・・」

「・・・、アルミン、分かってる」


訓練兵時代を良く思いだしてみれば、アニとミカサは元からそこまで仲が良くなかった。逆に、まだ何も知らないのであろうロゼッタはアニを心から慕っていたように見えた。友人として親愛していたのはもちろん、単純に尊敬もしていたはずだ。成績がいいと言うのもあるが、ロゼッタが俺に思いを打ち明けるきっかけとなったのもアニだと聞いたから、つまりそういう意味も籠っているんだろう。俺だって、アイツには感謝した時だってあった。


「アイツ、どういうつもりで・・・」

「アイツって、アニのことかい?」

「アニ以外に誰がいるんだよ」

「いや、ジャンのことだからロゼッタのことかも、と思って」


なんだ、それ。俺はそんなに四六時中ロゼッタのことを考えているように見えるのか?そりゃ、自分の命が危ういって時にロゼッタの心配をしたのは自分自身でも驚いた。だけど今は、頭のいいアルミンなら話の流れで誰のことか検討くらいつきそうなものなのに。アルミンはたまに、変な方向へ流れるな。


「ちげぇよ。アニはどういうつもりでロゼッタや他の連中と仲良くしてたのかって話だ」

「彼女自身、どこか他人との繋がりを避けようとしていた節はあったけどね。まさか、こんなことになるとは考えてもいなかった」

「そりゃ、誰だってそうだろうな」

「・・・、ロゼッタが、全てを知るのが怖い?」


部屋の隅をただボーっと眺めながらぽつりと答えれば、アルミンが突然こちらを見つめてそんなことを聞いてきたものだから、思わず目を合わせてしまった。全てを知るって、つまり。


「彼女の姉を殺したのは、アニだと知ったら」


自分がこちらを見てきたくせに、途端になって目を伏せて静かにそう言った。あぁ、さっきから考えないようにしていたのに。感づいたのか?それとも、ただ自分が気になっただけなのか。後者だとしたら、回りくどい聞き方だが。


「いつかは、知るんだろうな」

「今はそんなこと、微塵にも思ってないんだろうね。ロゼッタだけじゃなくてさ」


待機になっている104期の大多数は、このことを知らない。あまり他人に干渉しないアニであっても、3年間共に過ごした仲間の1人が巨人だったなんて知ったらそりゃ、それぞれに思う所もあるだろう。

ロゼッタが女型の正体を、真実をしるべきなのか、何も知らないままでいるべきなのか。どちらがいいのかなんて、俺にはサッパリ分からない。まぁ、俺がどんなに願ったって、いつかは知ることになるんだろう。


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