カウントダウン

クリスタと合流してから2分も経たないうちに煙弾が撃たれたと見られる場所が見えてきた。目を凝らしてみると、3人程人がいるのが分かる。並走していたクリスタと顔を合わせて、馬の速度を上げた。


「皆、大丈夫!?」


近づくにつれて段々とハッキリしてくる人物の顔は、ロゼッタもクリスタもよく知っている人物の顔だった。それにロゼッタが気づいたのと同時に、クリスタが大声で呼びかける。そこにいたのはジャン、ライナー、アルミンの3人だった。見たところ、アルミンは頭をぶつけたのか、怪我をしているようだ。でも、よかった。確かに生きてる。


「おー、俺の馬じゃねぇか!」


一番手前で救援を待っていたのであろうジャンは、クリスタの引いている馬を見てホッとしたような顔をした。やはり、クリスタの言うとおり何らかの形で馬が逃げ出してしまったのだろう。


「その子、ひどく怯えてこっちまで逃げてきて・・・。」


クリスタが周りを見渡しながらそう言った。
ジャンの馬は他の子たちよりも少しだけ臆病な傾向はあったけれど、逃げてきたということは巨人と遭遇したとしか考えられない。


「ね、ねぇ。ジャン、大丈夫なの?」


アルミンの怪我を心配するクリスタを見て、慌てて馬を落ち着かせるジャンに駆け寄った。見たところ目立った怪我はないようだったが、もし足をくじいたりしていたら大変だ。


「あ?あぁ、俺は大丈夫だ」

「よかった・・・。クリスタがジャンの馬持ってたから・・・」


段々と尻すぼみになっていく言葉に、ジャンは軽く口端を緩めるとロゼッタの頭をわしゃわしゃと撫でた。馬を撫でるように頭を撫で繰り回されては、あまりいい気はしないのだけど。なんだか、少し濡れてる気もする。


「と、とにかく。3人は馬が足りなくて困ってたってことだよね?なら問題は解決したし、早く陣形に戻ったほうがいいんじゃないかな」

「あ、そうだ。撤退の指令が出るはずだ」


急いで馬に乗りこんで、班長の命令を思いだした。この場合、戻ったほうがいいのだろうか。でも班の元を離れて少し時間が経ちすぎた。そうなれば陣形が多少崩れてる可能性もあるから、ここのメンバーと先に進んだ方が無難だろう。自分の中で結論を出して、予備の馬の手綱を引いて皆の後を追う。


「しかし、壁外に出て1時間足らずでとんぼ返りとは・・・見通しは想像以上に暗いぞ。何故か奴は、先頭の指令班とは逆の方向に行っちまったみたいだしな」


ジャンの言っていることが理解できない。いや、撤退の指令ってことはどこからか作戦続行不可能の煙弾が上がったのだろう。右翼索敵がほぼ壊滅してしまっては、陣形を維持することも困難だ。でも、奴とは・・・?右側に居たクリスタをチラリと盗み見ると、自分と同じように困惑していた。


「ねぇ、奴って・・・」


ロゼッタがすぐ前にいたライナーに問いかけた時、煙弾が上がる音がした。話していた通り撤退の合図かと思いその方向に目を向けると、予想に反して進路を変える意味を持つ緑色の煙弾が上がっていた。


「あれ・・・?緑・・・作戦続行不可能って判断されたんじゃなかったの?」

「陣形の進路だけを変えて、作戦を続行するみたいだ」


でも、右翼索敵がほぼ壊滅している状況で作戦を続行だなんて、リスクが高すぎないか?もうかなりの損害が出ているはずなのに。


「まさか指令班まで煙弾が届いてないのか・・・?」

「分からなくても、今の状況じゃやることは決まっている。判断に従おう!」


指令班が撃つ煙弾に逆らうという選択肢はないにしても、やはり誤射かもしれないと疑ってしまう。訂正の煙弾が撃たれないから、間違いなくこれがエルヴィン団長の判断なのだろうけど。


「ねぇアルミン。さっき言ってた”奴”って何?奇行種か何か?」


思いだしたようにロゼッタが問いかけると、アルミンはチラリとロゼッタを見てすぐに視線を元に戻した。


「さっき、知性があると思われる巨人と遭遇したんだ」

「知性・・・って、エレンみたいな?」

「あぁ、間違いない。あの巨人には知性があった」


思いだしてるのか、顔が強張っていく様子を見るに相当切迫した戦闘を行っていたのであろう。その巨人に人を殺す意志があったのなら、きっと3人が生きていることの方が奇跡だ。


「3人が無事で、よかった」

「恐らく・・・あの巨人の犠牲になった人たちはたくさんいる」

「それでも、安心したの」

「そう、だね」


アルミンの悲しげな表情を見て、心臓がチクリと痛んだ。最低だと思うかな。どこかで兵士が犠牲になってるのに、知っている人たちが無事で安心したなんて。クリスタのようにどんな人でも慈しめるような人間だったらよかったのに。でも、名前も知らない兵士よりも、ずっとずっと知ってる仲間が大切だと思うのは、いけないことなんだろうか。



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