信じることは難しい


「彼は我々が極秘に研究してきた巨人化生体実験の成功者である!」


ピクシス司令の横にいる、その”巨人化生体実験の成功者”は見間違えるはずもない。
昨日まで同じ場所で過ごしていた、エレンだ。
隣にいるジャンも、周りにいる同期達や駐屯兵団も動揺を隠せないようで、ざわつきが収まらない。


「なんで、エレン?エレンが・・・巨人?どういうことなの。ねぇ、ジャン」

「・・・」


彼がそんな実験の被験者だなんて、幼馴染の2人は知っていたのだろうか。
そんなそぶりは3人とも見せなかった。
正面から想いをぶつけられたロゼッタだって、エレンは普通の人間だと信じて疑わなかった。

動揺を隠せないロゼッタはざわめく周辺をキョロキョロと見渡しながら問いかけるが、ジャンはピクシス司令とエレンをただジッと見ていた。

人間が巨人になるなどにわかに信じられないが、巨人化した彼を操ることが可能だと言うピクシスはとても嘘をついてるようには見えない。


「巨人と化した彼は全門付近にある大岩を持ち上げ破壊された扉を塞ぐ!」


エレンがその大岩を運んでる間、彼を他の巨人から守ることが自分達の任務だという。
一度に信じられないようなことをいくつも聞いてしまって、とてもじゃないが頭の回転が追い付かない。

だって、普通に考えてできるわけないじゃないか。
人間が巨人になるなんて前例もない上に、なれた所で人間が巨人を支配するなんて、そんな馬鹿げた話ありえない。


「俺たちは・・・使い捨ての刃じゃないぞ!」


誰かの叫びがすぐ近くで聞こえて、肩が跳ねた。
こんな根拠のない話を信じろと言うのは無理があるから、はい分かりました。と受け入れる人間はほんの、ごく少数の人間だろう。

ダズの叫びに便乗して、周りの人間が作戦放棄を宣言して立ち去ろうとする。
ロゼッタは動くことなどできずに、ジャンのジャケットを握りしめて動く人の波を眺めた。


「ワシが命ずる!今この場から去る者の罪を免除する!!」


聞こえてきたピクシス司令の言葉に、人の波が止まった。


「一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん!
巨人の恐ろしさを知った者はここから去るがいい!」

「・・・ッ」


思わず握っていたジャケットを引っ張ると、今まで何も反応しなかったジャンがロゼッタの手をほどいて、握った。震えているのはジャンなのか、ロゼッタなのか。


「・・・ロゼッタ」


目をギュッと瞑る。ざわつきの中で、隣にいるジャンの声ははっきりと聞こえた。


「そして!その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟愛する者にも味あわせたい者も、ここから去るがいい!」


あぁそうだ。調査兵団は何も死にたいが為に壁外に行ってるわけじゃない。知ってた。
だからこそ憧れた。

明日の希望のために、誰かがやらなければ恐怖が朽ちることなどないから。
明日も自分のために、誰かを悲しませないために生きていたいから。


「なぁ、ロゼッタ」

「・・・」

「ロゼッタ、生きよう」

「うん・・・絶対、生きよう」


最初は人類のために戦う姉に憧れて訓練兵に志願した。
生きるために戦いたいと思うようになったのは、いつだったか。


「我々はこれより奥の壁で死んではならん!どうかここで・・・ここで死んでくれ!」


作戦は始まった。
願うだけでは勝利は掴めない。




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