本部に近づくにつれて遭遇する巨人の数が多くなってる。これ以上近づけば、必ず犠牲は出るだろう。どうしようもない状況に、ジャンは舌打ちをした。
ここで考え込んでる余裕はない。いずれここにも巨人が集まってくるだろうし、時間が経てば経つほど数も増えるだろう。なんとか、決断を下さねば。
しかし誰がそんな指揮をとる?先導していたミカサはガス切れでここにいない。だが打開策が見つからないまま、ここでくたばるなんてゴメンだ。
「うあああああぁぁぁ!」
考え込んでいたジャンの耳に、絶望の色に満ちた悲鳴が届く。
「ガス切れか・・・!?」
急いで目を向けたその先には、アンカーを壁に刺したままその場から動けないトムがいた。ガスが切れて移動できないのは誰から見ても明らかだ。道なんかで立ち止まっていればすぐに巨人が来てしまう。一刻も早く助けなければ。誰よりも先に動いたジャンだが、降りる直前で足を止めた。
「・・・うッ」
すでに回りを巨人に囲まれている。最悪の結果が今目の前で起きていることにゾッとした。今、降りれば、確実に・・・。
「トム!今助けるぞ!」
「・・・!?よせ!もう無理だ!」
ジャンの咄嗟の抑止を振り切り飛び出していったのはトムと仲のいい同期だ。彼らは迷わずトムを食らおうとしている巨人に切りかかろうとするものの、周りの巨人が多すぎて到達することさえ出来ずに捕まった。
「・・・いや、ひッ」
「やめろおお!はなせええぇ」
数十秒、誰一人動けないでいた。もし、助けに行けば、次の犠牲は自分だと分かっている。
どうする?この状況をどうやって打開する?このままここで見ているだけならば、同期を食い終えた巨人たちは間違いなくこちらに来るだろう。1人でも多く、生き残らなければ。だったら、選択肢は一つしかない。
汗ばんだ手で操作装置を持ち直し、本部がある方向を睨みつけた。
あと、少し。
「今だっ!」
巨人があそこに集中しているスキに本部へ突っ込む。今しかない。一気に行かなければ。
微かに震える足を軽く殴って強く踏み込む。
「どの道ガスがなくなれば終わりだ・・・全員で突っ込め!」
止まるな 止まるな 生きたいのなら。右に、左に、後ろにいた奴らの叫びを聞いても振り返る余裕はない。
「ッ!」
左足を強い圧迫感が襲った。頭が働くより先に、腕が動いて巨人の指を切って脱出していた。生きたい、今頭の中にあるのはそれだけだ。生きて、やらなければいけないことが山ほどある。
「うおおおおおぉぉぉ!」
勢いで突っ込んだ本部の備蓄品に強く体を打ち付けるが、今はそんな痛みも気にならない。
「何人、たどり着いた?仲間の死を利用して、俺の合図で何人・・・死んだ?」
近くにいた奴らが巨人に食われる所さえ、俺は見てない。悲鳴も、今になって頭の中で響く。あぁ、俺のせいか。ズキズキと痛む頭を押さえて周囲を見渡すとすぐ横に、人の影。
「お前ら・・・補給の班・・・だよな?」
「あぁ・・・」
それだけ答えて動こうともしない男に、無性に腹が立った。こいつらのせいだ・・・今の一瞬で、何人死んだと思ってやがる。
仲間たちの悲鳴がまだ頭に残って出て行かないというのに、こいつらはここで何をしてた?男の胸ぐらをつかんで潜んでいた机の中から引っ張り出して思いっきりぶん殴った。
止めるマルコにも腹が立つ。何故止めるんだ。こいつらは、
「こいつらだ!俺達を見捨てやがったのは!てめぇらのせいで余計に人が死んでんだぞ!」
「補給所に巨人が入ってきてどうしようもなかったの!」
「それをなんとかするのがお前らの仕事だろ!」
殴られて倒れていた男がハッとして顔を上げた。血がにじみ出ている口から出てきた言葉にジャンは固まった。
「ロゼッタには、会わなかったのか?」
ロゼッタ?なんでこいつの口からアイツの名前が・・・。もしかして。嫌な予感にジャンは唇をかみしめた。
「おい、まさか」
「・・・ロゼッタが出て行ったんだ、ここから!無謀なことに1人で」
あぁ、嫌な予感ばかりが当たる日だ。