同化する光

「・・・・何、」


目の前で巨人が倒れた。何が起きた?確かにロゼッタは直前まで巨人に襲われていたはずだった。何とかして、ここから逃げなければ、と。しかし今、目にしている光景をロゼッタは瞬時に理解できなかった。理解できるのは、巨人が絶命した。それだけで。


「おい、大丈夫か!」


一気に力が抜けてその場に座り込む。そんな場合じゃないのに。


「・・・あの、」

「喋ってる暇はない。訓練兵、ガスはあるのか?」


目の前にいる男は駐屯兵団のようだ。ここにいるということは、後衛の兵だろうか。男の問いに首を横に振って答えると、所持していたらしいボンベを2つ取り出した。


「これもあまり入っていないが、壁を登る程度は残っている。早く替えて壁を登るんだ!」

「でも、私、」

「どこの所属かは知らないが、今はとにかく登れ。私が通りかからなければお前は今頃死んでたんだぞ!」


揺らされて、傷の痛みと驚きで肩が跳ねあがる。それに気づいたらしい男はロゼッタを急かした。


「いつ巨人が来るか分からない。私も壁に登る」


焦って手が滑るが、ようやくボンベを装着すると男はロゼッタの腕を引いて立った。そこからは無我夢中で、走る男の後ろのついていくのに精いっぱいだった。



「大丈夫か?」

「・・・は、はい。すみません」


突然の成り行きに息が切れるて苦しい。さっきからずっと、状況が判断できていない。


「私は駐屯兵団のイアンだ。お前はどこの班の所属だ?」


イアン、そう名乗る男の問いにびくりと震えた。そうだ、私、任務があったのに。


「え、と・・・補給班、です」

「補給班か・・・ご苦労だった」


優しくロゼッタを労うイアンの声にどう反応したらいいのか迷った。

ご苦労?私は何もしてないのに。ほんの数人に、ガスを渡しただけなのに。本来ならばそれが仕事だ。放棄はしてはいけない。


「いいえ・・・私は任務を全うできませんでした」

「あそこにいたということは、任務遂行中だったのでは?」

「確かにそうです。けれど、たった・・・たった、数人です」


そうだ。あの時私が巨人に屈服していなければ・・・。いや、それ以前に私がアンカー発射を失敗しなければ任務を続行できたかもしれない。もうそれを叶えることはできない。悔しさを紛らわせるために服を力いっぱい握る。あの場では、少しの失敗で自分や周りの命が左右される。失敗をしていなくとも、命を落とすことも多いだろう。


「数人、君のおかげで助かった」

「・・・、」

「君が動かなければ、助からなかったかもしれない命だ」


震える身体がピタリと止まった。助かった、私の行動で、助かった人がいる。


「ほら、君も怪我をしてるんだろう。早く手当に」

「かすり傷です!」

「無理をしてはいけない」


イアンの指示にロゼッタは頷くことはできなかった。今は自分のことよりも気になることがある。先ほどからまわりを見渡しているけど、見慣れた顔ぶれを見かけない。


「同期の心配をするのは分かる。しかし今だからこそ人手が必要だ。1人でも」


暗に、同期は死んだと思った方がいいと言われてる気がして、鳥肌が立った。アニも、ミーナも、ジャンも、まさか、みんな?動こうとしないロゼッタを見かねて、イアンは衛生兵を呼んできたようだ。ゆっくり腕を引かれながら歩く。自分の顔が青ざめていくのが分かる。考えれば考えるほど、最悪の状況が頭に浮かんできて。

私だって、あそこでイアンさんが助けてくれなければ、死んでいたのだ。巨人の目が私をとらえた瞬間を思いだして戦慄する。



「・・・あ、」


イアンさんに、お礼言ってなかったな。


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