「トーマス・ワグナー、ナック・ティアス、ミリウス・ゼルムスキー、ミーナ・カロライナ、
エレン・イェーガー」
すぐ近くで、アルミンの悲痛な、叫びとも取れるような声が聞こえた。
「以上5名は自分の使命を全うし・・・壮絶な戦死を遂げました・・・!」
ドクン、冷や汗がどこからか溢れ出てこめかみを伝った。
死んだ?誰が?トーマスが?エレンが?3年間共に過ごしてきた仲間が、この数時間で死んだだって?調査兵団に入って巨人を駆逐すると豪語してたあの死に急ぎ野郎は、文字通り死んでしまったのか。
「マジ、かよ・・・」
人は、こんなにもあっさり死んでしまうのか。いや、分かってたはずだそんなことくらい。だからこそ俺は自分が死ぬのは嫌だと思ったし、ロゼッタが自ら死に急ぐような道に走ろうとしているのも許せなかった。何のために訓練してきた?あの訓練は元々巨人を倒すための訓練だろう。なのに、この数時間で何人も死んだ。考えれば考えるほど混乱して頭がおかしくなりそうだ。
「本部に群がる巨人を排除すれば、ガスの補充が出来てみんなは壁を登れる。違わない?」
今この場に流れている空気に相応しくない凛とした声が響く。その声の持ち主は、民家の屋根の中心まで歩くとブレードを天に掲げた。わずかな光が反射して眩しいが、それでもその場にいる全員がミカサを見ていた。
「し、しかしいくらお前がいても・・・あれだけの数は・・・」
マルコはおずおずと口を開いたが、それにさえミカサははっきりと答えた。
「できる」
根拠はないが確信している。そんな声だった。
「私は・・・強い。あなた達より強い。すごく強い!・・・ので私は・・・あそこにいる巨人どもを蹴散らすことが出来る。たとえば、1人でも」
誰一人ミカサから目を離そうとしない。それどころか呆気にとられたようで、身じろぎひとつさえできないでいる。確かにミカサは強い。この場にいる俺たちより、ずっと。だけどあの数を一人で蹴散らすだって?出来るわけない。例え、ミカサであっても。
「あなた達は腕が立たないばかりか・・・臆病で腰抜けだ・・・とても・・・残念だ。ここで、指をくわえたりしてればいい。くわえて見てろ」
「あの数の巨人を1人で相手する気か?そんなことできるわけ・・・」
「できなければ死ぬだけだ。でも、勝てば生きる・・・戦わなければ、勝てない」
わけが分からないことを言っているように聞こえる。しかしその言葉は、確かにその場にいる全員の心を動かした。それはジャンとて例外ではない。ミカサの狙いを、察した。彼女は本気で、生きたいのだ。生への執着心が、彼女に返事をするように唸る。
絶対生きて帰るんだ。それで、ロゼッタと、また。そこまで考えると背中が凍ったような感覚を感じた。おい、ロゼッタはどこだ。周りを見渡してもいないから、少なくともここらの班じゃないだろう。そういえば、ロゼッタの所属班はどこだ?
他の所でガスの補給ができるのを待っているのか、それとももう壁に登ったのか、あるいは・・・。最悪な結果が頭をよぎって、慌てて首を振った。今はロゼッタのことを考えてる場合じゃない。あいつはきっと生きてる。まず俺が生きてなきゃ、どうにもならねぇだろうが。
「・・・チッ」
とにかく今は、生き延びることに専念するんだ。
「オイ!俺たちは仲間に1人で戦わせろと学んだか!?お前ら!!本当に腰抜けになっちまうぞ!」
決して悪あがきなんかのためじゃない。これは、生きるための決死の作戦だ。