イメージは「私の頭の中の消しゴム」。みたことないですが、多分そんな感じ。何もかも、少しずつ忘れいくヴェルゴさんと、それに寄り添うドフラミンゴ。 こってこてなシリアスが好き。 ■□ ……?ドフィ、俺の万年筆を知らないか? ーーーヴェルゴ、それなら先週ペン先が歪んだから修理に出しただろ? そういえばそうだった。俺は先週万年筆を修理に出した。 ……ところでドフィ、西館の客室の窓の立て付けが悪くなっていたが、直されただろうか? ーーーヴェルゴ、窓を直したのはもう先月のことだ そういえばそうだった。とっくに窓は直っていたんだった。 ……ところでドフィ、今日はまだメイドのカーサの姿を見ないのだがどうしたのだろうか ーーーヴェルゴ、メイドのカーサなら半年前に結婚して田舎に帰っただろ? そういえばそうだった。カーサは田舎に帰ったんだった。 ……ところでドフィ、庭に迷いこんできた猫にエサをやりたいのだが、構わないだろうか? ーーーヴェルゴ、その猫なら去年カラスに襲われて死んでしまっただろ? そういえばそうだった。猫は死んでしまったんだった。 ……ところでドフィ、郊外で大きな火事があったそうだが、被害はどれくらいだったのだろうか? ーーーヴェルゴ、北東の街の大火事は四年も前のことだったろう? そういえばそうだった。火事は四年前のことだった。 ……ところでーーー……………………… ーーー?ヴェルゴ、ヴェルゴ、どうかしたのか?ヴェルゴ、ヴェルゴ、何かあったのか?ヴェルゴーーー ヴェルゴ……ヴェルゴ……ああ、そうだった。俺の名前は「ヴェルゴ」だった。君が何度も何度も呼んでくれるのに忘れてしまうなんて、俺はどうかしてた。ヴェルゴ、ヴェルゴ……俺の名前だ。こんなに繰り返し呼んでもらっているのに、忘れるなんて。俺は、 ーーーヴェルゴ、気にするな。何度でも呼ぶ。何度でも教える。ヴェルゴ、何度でも呼ぶから。そのたびに思い出せばいい。ヴェルゴ、俺のヴェルゴ。 ありがとう。ありがとう。でも大丈夫だ。自分の名前なんて。そんなもの。構いはしない。君の名を忘れない。それだけは忘れない。自分のことを忘れても、君の名を覚えていればそれでいいんだ。そうだろう?いちばん大切なものを一つ覚えていれば。 ーーーヴェルゴ、ありがとう。その思いで十分だ。だから忘れたって気にするな。それも何度だって教えるから。忘れたら忘れただけ、思い出せばいい。何度でも覚え直せばいいさ。それだけのことだ。 ありがとう。だが大丈夫だ。忘れないよ。忘れるものか。何を忘れても、それだけは。自信があるんだ。忘れない。何よりも大切なものだからな。それだけ思っているというとこだよ。忘れない、忘れないからーーー忘れ、 ………?忘れない?何を?忘れない、何を忘れないんだったろうか?俺は何をそんなに頑なに……?……?……?だめだ。思い出せない。 ……ところで、君はーーー ■□□□□ ドフラミンゴは、ヴェルゴの言葉に笑みを返した。静寂に似た笑みだ。 肌を冷やす風が窓を通り抜けて部屋に吹く。そろそろ、窓を開けていては辛い季節になってきた。ヴェルゴは、冷たい風が身を冷やすことすら忘れてしまったのだろうか。 「俺の名前はドンキホーテ・ドフラミンゴーーードフィと呼んでくれて構わない」 101回目の残酷な問いに、101回目の自己紹介を返す。 冷えてしまった唇に、笑みの形は残酷すぎた。寂寥ばかりが舌に残った。だけど、ドフラミンゴは繰り返す。何度でも。それでも、構わなかった。 「ところでドフィ、俺の万年筆を知らないか?」 「ヴェルゴ、それなら先週ペン先が歪んだから修理に出しただろ?」 (忘れたって構わない。何度でも、教えるから。何度でも、思い出せばいい。俺が、覚えてるから。お前の分も、覚えてるから) |