「チョコちょーだい」 ランドセルをおろす間もなく、両手を突き出して小首を傾げるキッドに、ベラミーは大人げない顔で笑ってみせた。 「なんだ、お前もチョコもらえなかったのか」 「もらわなかったんだよ。恋人いんのにもらえねーだろ」 キッドは訝しげにベラミーを見上げた。 「‘お前も’ってことは、お兄ちゃんはチョコもらえなかったわけ?‘もらわなかった’んじゃなく?」 「……うるせー!」 ベラミーは鼻白み、足音あらく踵を返した。 キッドもスニーカーを脱ぎ、きちんと揃え、ランドセルを玄関に置くと、ベラミーを追って部屋に上がる。 「なぁ、チョコちょーだいチョコちょーだい」 窓を開け、ベランダに干した洗濯物を取り込むベラミーの裾を引き、キッドは食い下がる。ベラミーはよく乾いた洗濯物を部屋に投げ込んみながら投げやりに言った。 「んなもんねぇよ。お前こそ俺にチョコねーのかよ」 「……大人でもチョコ食べんの?」 ベラミーの投げる洗濯したタオルが頭にかかったキッドが首を傾げて尋ねる。ずるりとタオルが頭から床に落ちた。 「大人でもじじばばでも食うやつは食うさ」 ベラミーが呆れたように言う。 「ふーん。大人は甘いもんなんて食べないと思ってた」 「なわけねぇだろ」 キッドの肩に掛かっていた靴下をベラミーが回収し、他の洗濯物とまとめてベットに山を作る。ベットに腰掛け、山になった洗濯物を畳んでいく。キッドも手伝おうと、ベットの上に乗り、膝で歩いてベラミーの横に行く。 「お兄ちゃんもチョコほしいの?」 キッドはベットに膝立ちしたまま、ベラミーを見下ろして尋ねる。そうして、着ていたシャツの裾をおもむろにめくり上げ、真っ白な腹をベラミーの眼前に晒した。 「はい、イチゴチョコ」 真っ白で薄い胸の頂きについた、甘そうな桃色の乳首をベラミーに差し出した。 「お、おま……自分でやって恥ずかしくねぇのか」 しまえしまえ、とベラミーは引いた顔でキッドのシャツを下ろす。 「なんだ、いらないの?じゃあいいけど……おれはチョコほしい」 ベラミーの横にちょこりと座り、キッドは太陽のにおいのするトランクスを畳む。 「しつけーな……チョコなんて置いてねぇ……あ」 何かを思い出したベラミーは、ベットをおり、台所に向かった。 「ほらよ」 しばらくして戻ってきたベラミーの手には、小さな皿とスプーンが乗っていた。 「アイス、とチョコレートリキュール」 ベラミーがテーブルに皿を置く。キッドも手にしていた片足しか見つからない靴下を放り、ベットをおりて皿を覗いた。 皿に盛られたバニラアイスには、黒く艶めくチョコソースがかかっている。そのチョコソースからは微かにアルコールのにおいがした。 「おお」 「今日だけだからな」 「いただきます!」 大人の食べ物に目を輝かせるキッドに、ベラミーが渋い顔で付け足す。 「こないだダチの家で飲み会したとき、余ったもんいろいろ持って帰ったんだよ。そん中にそいつあったの忘れてた」 こんな甘い酒、誰も飲まねぇよ、と愚痴りつつ、畳まれた洗濯物を押し入れにしまう。 「言っとくけどそれ以上は駄目だからな。アイスはまだあるから食うならアイスだけ………」 「グウ」 洗濯物を押し込んだベラミーがキッドを振り返ると、キッドがスプーンを握りしめたまま机に突っ伏していた。 「……」 ベラミーが顔を覗きこむと、赤い頬のキッドが唇にチョコソースをつけたまま寝こけている。ほんの少しとは言え、子どもにはきついアルコールだったのかもしれない。 「………イチゴチョコもらっときゃよかった」 (あとでキッドのイチゴチョコ食べようと思ってたベラミー) |