「お前さんが一等好きじゃ」 人の部屋に勝手に上がり込み、勝手に俺の分まで淹れたコーヒーをすすりながら、ミルクを足すついでにそいつはそう言った。 「一等好きじゃ」 カクの手元で黒い液体に白い線が走り、底から漂うように白い靄が浮き上がった。そうしてすぐに薄い茶色に変わってしまった。 俺の手元にある、阿呆のように真っ白なコーヒーカップに注がれた液体は、墨のように真っ黒なままだ。酒か緑茶かしか飲まない俺にとって、飲み物に砂糖や牛乳を入れるなんて気違いじみたことできるわけがない。 「あいつはいいのか」 黒い液体をすする。苦い。思わず眉間に皺が寄る。ビールの苦味と違い、この苦さには酔えやしない。 「誰のことじゃ?」 そいつはそう嘯いて、茶色くなった液体に今度は砂糖壺から掬い上げた甘味料を足してかき混ぜている。砂糖壺に混じった金平糖を見つけ、嬉しそうにつまんでいる。黄色くちっせぇ金平糖だった。 「……誰でもねぇよ」 そいつがはぐらかすので、俺もそれ以上踏み入れない。苦みにしかめた顔のまま、ぶっきらぼうに言い捨てる。 砂糖壺をほじくり返し、次々と金平糖を見つけ出すそいつは、そんな俺に見向きもしない。 「なんでも一等がいいじゃろ?わしもそうじゃ。一等がいい。一等強くなりたい、一等偉くなりたい、一等愛されたい」 そうじゃろ?―――銀のスプーンで削掘作業を一時中断し、いらん知恵をつけた餓鬼の目で、上目にこちらを見て言った。 「そうだな」 俺はそんな奴の顔に唾を吐きかけたいのをなんとかこらえ、吐き出されなかった唾とため息とその他諸々を飲み下すため、カップを手に取った。決してコーヒーがうまいわけではない。こいつが使う「ぶるーまうんてん」とやらに罪はない。冷えきる前に飲んでやらねば可哀想だった。冷めきってるカップのコーヒーなんて、世界で一番興ざめなものだ。 そうぐだぐだと言い訳のような言葉を並べてカップを持ち上げると、すかさず前からスプーンがのびてきて、カラカラと愛らしい音を鳴らしてすぐに引っ込んだ。 カップを傾けながらテーブルを見下ろすと、白いソーサーにピンクや黄色や水色の星がいくつか転がっていた。 テーブル越しの奴を見ると、素知らぬ顔をしてまた砂糖壺をほじくり返している。だが、その口元は満足げに弧を描いていた。 くそったれが。俺だってそうだ。なんでも一番がいいに決まってる。 一番強くなりてぇし、一番偉くなりてぇし、一番好かれてぇさ。 くそったれめ。 「一等好きじゃよ、ジャブラ」 唇に、金色の星が一つ押し付けられる。押し込まれたそれは、当然甘かった。 唾とため息とその他諸々と口に広がる砂糖味を飲み下すため、俺は最後の一口を一気に煽った。 苦くて甘くて最悪だ、くそったれめ。 |