惑星探査



酎ハイやビールの缶が詰まったビニール袋が一つ。スナック菓子やチョコレイトの詰まったビニール袋が一つ。
白く浮わつく二つが夜道にぶらついていた。
酒の詰まった重い袋はルッチの手に、菓子の詰まった軽く甘い袋はカクの手に収まっている。

「酒は足りるじゃろうか?」
「酒なら家にもある」
「いやじゃ。ルッチの酒は辛いのばかりではないか」
「いやならミルクでも飲んでいろ」
「意地の悪いやつじゃな。‘足りなければまた一緒に買いに出よう’くらい言えんのか。レポート地獄明けの祝いだというのに」

今日は月が明るい。ちょうど半分に割れた月の片割れが空に昇っていた。半月でも地に影ができるほどの明度がある。
月が明るいから―――ではないだろうが、この季節にしては暖かい夜だった。

「ときにルッチ」

先ほどまで頬を膨らませていたことなど忘れたように、カクは気さくに隣人へ話し掛けた。
「右手の予約は空いているか?」
「……」
カクは道の先を見つめたまま唇を笑ませている。この男は子どものようにころころと表情を変える。
「……先客がいたが、たった今お帰りになられた」
「そうか!」
ルッチの右手に居座っていた白いライバルが左手に移されると、カクはいそいそと左手を伸ばした。
繋がれた右手と左手が光と影の真ん中で揺れる。
ルッチは、月が明るいおかげでできた民家の塀の影の中を。カクは、月明かりが照り返す明るいアスファルトを踏んでいた。
「ルッチ、そこは暗いだろう?こっちに来ぬか?」
街灯も頼りない夜道の、さらに影中を歩くルッチに、繋いだ手を引いて提案する。この男に限って、転ぶような間抜けは起こさないだろうが、せっかく月が明るいのに影に隠れてしまうのは勿体ない、とカクは思った。
「俺はいい」

―――月の中は危険だ

前を向いたままいつも通りの無表情でルッチは言う。
「お前こそこちらに来い。お前も危険だぞ」
「?」
年上の者に囲まれ、爛漫と育った男にしては珍しく、不思議そうな戸惑ったような顔でルッチの横顔を窺う。
「何が危険だと言うんじゃ?」
月の面に当たり一度死んだ太陽の光は、地上のアスファルトに当たってもう一度死ぬ。二度死んだ光は地面で照り返し、まだ少年の輝きを持った男の瞳に向かう。
「、!」
急に繋いだ手を引かれ、よろめいて男の腕に飛び込んだ。

「拐われてしまうぞ」

二度死んだ光は、生ある彼からきっと何かを奪っていく。
拐われてしまうぞ―――思うより温かな男の腕に閉じ込められ、耳元でひそめた声が囁かれる。引き込まれた影の中は、気のせいだろうか、月明かりの中より静かだった。
―――拐われてしまうぞ
「―――」


(それは誰に?)


そう尋ねようと開いた唇は、何の音も紡ぐことなく、声ごと奪われた。



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