お皿が一枚足りないの
2011/09/12 21:37 (0)

絶対そんなはずはないのに、ふと「そうだったか?」と疑問に思うときがないだろうか。右とはどっちだっけ?
明日は今日の次だったか?
いま階段を降りたかしら?
当たり前のことが、突然疑問として目の前に現れる。私たちは常識に掌を返され、幼子のようにおたおたと情けなく戸惑う。


いつものように母を手伝い、夕飯の用意を進める。テーブルを拭きあげ、箸を並べ、皿を人数分用意する。
母の包丁の音と、カタコトと鍋の吹く音を背中に聞きながら、食器棚から皿を選ぶ。とある県の片田舎にある我が家は、本家ということもあり田舎の例に漏れずやたらと皿がたくさんあった。10枚、20枚、30枚、中にはそれ以上の枚数の揃いの皿が棚にも長櫃にもみしりと詰まっていた。
とは言え、普段使う皿がそんなにある訳でもなく、日常使う皿は家族の人数分しかないのだが。

我が家は5人家族。

今日は仕事や所用で誰も欠けることなく揃っている。祖母、父、母、私、弟―――この五人で我が家は構成されている。
一、二、三、四、五―――指先が家族分の皿を揃える。そうして、五枚の皿を両手で包んだとき、そいつは姿を現した。
はて?

ふと感じた疑問に私は首を傾げる。なにに対して私は疑問を感じたのか。そぉっと頭の中を覗いてみれば、手の中の皿に視線が寄った。


五枚?
はて?五枚?
そうであったか?


先ほど、私は確かにそう感じたようだ。
だけど、五枚という数字になんの間違いもない。毎日毎日選ぶ数。指先が厚みを覚えている、掌が重さを覚えている、目が数を覚えている。
間違いなどない。そう、ないはずなのに、私は日常の一瞬の反乱に私は常になく動揺していた。疑問を覚えた自分にひどく戸惑っていた。


なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ?
何が足りない?誰が足りない?いくつ足りない?
いや、足りている。指先が知っている。目で確かめている。足りている。足りているぞ。一枚、二枚、三枚、四枚、五枚。
ほら、足りている。
一枚、二枚、三枚、四枚、五枚。
ほら、足りている。
一枚、二枚、三枚、四枚、五枚。
ほら、た―――


「郵便でーす!―――足りないお皿、お届けにまいりましたー!」


底抜けに明るい声が我が家に響いた。
足りないの。お皿が一枚足りないの。郵便屋さん、足りないお皿は誰のなの?



(郵便屋さん、お皿が一枚落ちましたー♪いちまーいにーまいさんまーいよんまーいごーまいろくまーい……あら足りない?)








◆◇


唐突に書き散らすうすぼんやりほの暗文。
平成・番町皿屋敷
意味はない。五感で語感を感じてね。




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