Show must go on!


結婚前夜(キャべバル)
2014/07/21 11:52 (0)


「見合いだそうだ」


ハンバーガーの包みを開け、中を覗き込んだキャベンディッシュはひどく難しい顔をしていた。
「来月、僕の誕生日パーティーがあるんだが、どうやら父はそれをお見合いパーティーにしたいらしい」
蒸気を吸ってふやけたバンズに、薄っぺらなパテと、萎びたレタスが挟まったそれをつまみ上げ、キャベンディッシュは恐る恐るそれを口にした。
「はぁ」
シェイクを吸い上げていたストローから口を離し、バルトロメオは気のない相づちをうつ。
「招待されるのは各界の著名人のご令嬢ばかりになるようだ」
キャベンディッシュは眉間にひどく皺を寄せ、味の濃い大雑把な味のジャンクフードを咀嚼する。
「誕生パーティーの場を借りた見合いだなんて言わないだろうが、当日はひっきりなしに着飾った令嬢たちが僕の前に連れて来られるんだろう」
舌に広がるにおいのきついピクルスに辟易したが、何とか口に入れたものは飲み込んだ。味を消そうとホットコーヒーを傾けたが、キャベンディッシュはまた眉間に皺を寄せる羽目になった。「なんだこの泥水は」と言わんばかりの表情だ。
ズゾゾゾゾゾゾーーー
バルトロメオは返事もなく黙々とシェイクを吸い上げる。冷たさだけが取り柄の、繊細さのかけらもない味だが、キャベンディッシュと違い、味の基準が低いバルトロメオにはうまいと感じる。
「すでに根回しが済んでいるようで、じいやですら『◯◯家のご息女はプロピアニストで世界で評されておるそうです』やら『茶道の家元である△△家のご令嬢はたいへんお美しい』だとか、ことあるごとにパーティーに呼ぶ見合い相手を紹介してくるんだ」
まったく、家にすら僕の休まる場所はないーーーそうため息をつき、キャベンディッシュはまたハンバーガーにかじりついた。味わうのをやめてしまえば、食べれないこともない。生暖かいピクルスが鼻を抜けて香るのは諦めるしかないが。

ズゾゾゾゾゾゾ

シェイクが減ってきて、ストローを通るシェイクの音が一段と増す。
キャベンディッシュは眉を顰め、バルトロメオに注意しようとした。食事中に音をたてるななんてファーストフード店で言う気はないが、店いっぱいに響くほどうるさいのはいただけない。
「おい、バルトロメオーーー」と口を開いた直後、「ぷはっ」とバルトロメオがストローから口を離した。途端に店から音がとぎれる。

「やだなぁ」

バルトロメオはまたストローをくわえ、音をたててシェイクを吸った。ズゾゾゾと底に残っていたシェイクを吸い上げ、バルトロメオは席を立った。
「……は?え……?」
キャベンディッシュの小言は外に出ることなく口内で立ち消えた。代わりに間の抜けた音がこぼれる。
バルトロメオは席を立つと、さっさと店を出て行った。

「ちょ、ちょっと待て!」

自動ドアが閉まる直前、ようやくキャベンディッシュは慌てて立ち上がった。食べかけのハンバーガーがテーブルに転がる。
「待て!待て!待て!」
キャベンディッシュはバルトロメオを追いかけて街に出る。バルトロメオは振り返ることなく、さっさと先に進んでいく。
「バ、バルトロメオ!さっきのどういう意味だ!バルトロメオ!」
早歩きで先を行くバルトロメオを、同じく早歩きで追いかけるキャベンディッシュ。キャベンディッシュは必死でバルトロメオの背に声をかける。
「おい!バルトロメオ!ちょっと待てと言ってるだろ!」
一向に止まらないバルトロメオに、怒り気味に声をかけると、バルトロメオが一瞬だけ足を止めた。しかし、止まったのはほんの一瞬で、またバルトロメオは早歩きを始めた。
「……おい!それは『ちょっと待った』つもりか!そういうことじゃない!待てと言ってるんだ!止まれ!ちょっとじゃなくてずっと止まれ!」
キャベンディッシュはあがる息の合間に、必死に声を上げる。
「待て……!待てってばバルトロメオ……!バルトロメオ、少しでいい!少しでいいから」
キャベンディッシュの整った指が、バルトロメオのコートの端を掴んだ。
キャベンディッシュから見えるバルトロメオの耳は、熱を持ったように赤くなっていた。キャベンディッシュも、頬が熱いのを感じていた。
コートを掴む指が震えているような気がした。誤魔化すように、指先にぎゅっと力を込める。
バルトロメオは止まらない。キャベンディッシュはそれに少しだけ感謝する。向き合ったら、まともに喋れそうになかった。
「バルトロメオ……」
唇が震える。声が震えないことをキャベンディッシュは祈った。


「少しだけ、僕らの未来の話をしよう!」




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