Show must go on!


Drinker(ベラバル)
2014/04/27 08:43 (0)

互いの顔が、至極間近にある。

ベラミーとバルトロメオは互いの息がかかりそうなほど間近で、眠たい瞼をゆっくりとまたたかせた。

(なんでこんな近いんだ)

また眠りそうなバルトロメオを見ながら、ベラミーは現状をぼんやりと探った。
(昨日は、二人で飲みに行ったんだった。俺が誘ったはず。酒を飲もうと。それで、安い居酒屋で安い酒をしこたま飲んだんだ。なにかむしゃくしゃすることがあって、飲みに行った気がするが……忘れた)
バルトロメオの瞼がゆっくりと落ちた。しかし、浅く眉間に皺が寄って、すぐに目を開いた。バルトロメオとベラミーの互いに不審げな目が、見つめ合う。
(それから、散々飲んで、散々酔っ払って、互いになんとか体を支えあって、俺の部屋に行った)

それからーーー

「ーーー!」
「ーーー!」
二人の時間が凍りついた。
それからーーー酔ったまま部屋に帰り、ベッドに倒れ込み、「重い」「狭い」と互いに小突きあいーーーそれから、気づいたらキスしてて、それからなぜか服を脱がせてて、それから、それから、とても口に出せないようなことを言ったり、やったり、やらせたりしたことを、二人は光の速さで思い出した。

「うわぁぁぁぁぁ!」
「!?お、おわっぁ!?」

ベラミーは衝動のように叫び、飛び起きた。バルトロメオもベラミーの叫びに驚き、慌てて飛び起きた。
「ぬぉ!?ふ、服!」
蹴り飛ばされた布団の下は、残念ながら布一枚まとっていなかった。ベラミーはベッドから転がり落ちるように降り、散らばった服をかき集め、足を通す。
「うおっ、裸!?」
バルトロメオも自分の下半身を見下ろし、急いで手近に落ちていた下着を履く。
「シャツ、シャツどこだよくそっ。くそ、履けねぇ、くっ、ジーパン発明したやつ殺す……!ぐわっ!」
右足をボトムの左足に通してしまい、片足で跳ねていたベラミーは、足をもつらせてパンツ姿のまま床に転がった。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
どたばたと転げ回ったベラミーは、しばらくして、床に膝をついたまま、諦めたように固まった。肩を大きく上下し、焦りで上がった息を抑える。
「……」
ベラミーがそろりとベッドの様子を伺う。ベッドには、同じように下着姿のバルトロメオが途方にくれていた。
「ーーー!」
ベラミーと目が合うと、バルトロメオは背を向け、慌ててベッドに横になった。今さら寝たふりでもしようと言うのだろうか。
ベラミーは生唾を飲みこみ、意を決してバルトロメオに膝をついたままにじり寄った。ベッド下の床に散らばった、カピカピの丸まったティッシュにはひとまず気づかないことにして。
「……おい、バルトロメオ」
こちらに向けられた背中に、ベラミーはひっそりと声をかけた。
ふと、バルトロメオが自分のボクサーパンツを履いていることにベラミーは気がついた。パンツに拘りなんてないバルトロメオが、ブランドもののパンツを持っているわけがない。と言うことは、いま自分が履いているパンツはバルトロメオのものか、とベラミーは尻の収まりの悪さを感じた。
「おい、バルトロメオ」
居心地の悪さを誤魔化すようにもう一度バルトロメオに声を掛ける。
「……も、もう食べれないむにゃ」
「……」
べったべただな!ーーーと、ベラミーは胸の内でツッコミを入れた。バルトロメオは誤魔化せたと思っているのか、それとも起きづらいのか、頑なに寝たふりを続けている。
ベッドに丸まるバルトロメオの背中には、赤いあとがいくつもついていた。左の肩甲骨の上には、歯型もついている。
それを見たベラミーは、自分の右の二の腕が痛むのを感じた。見てみると、歯型と言うには可愛げのない二本の刺し傷があった。深く刺さったようで、血も滲んでいる。他にも、爪が刺さったような跡や、引っ掻き傷があった。

(あ、あっ、あ、っく、んん、ん!)

キスを交わしたときの濃いアルコールのにおい、肩口にたてたキバと腕にたてた爪の痛み、荒い息の合間に聴こえた鼻にかかった声。それらがベラミーの脳裏に蘇る。
じんーーーと欲の集まりだした下腹を誤魔化すように、ベラミーは慌てて背を丸め、額をバルトロメオの脇腹に押し付け、突っ伏した。
「……バルトロメオ」
思いがけず情けない声が出た。前屈みになってるせいだと、ベラミーは一人胸の内で言い訳した。
バルトロメオがわずかに身じろいだ。脇腹をかすめるベラミーの髪の先がこそばゆいのだろう。
「バルトロメオ……俺は、少しだけ……」
カーテンの向こうには、日差しが見える。外は、部屋の中と違い、なんてことのない朝なのだろう。運命とやらは、平和な朝に追いやられ、この狭くて汚い部屋の中だけを居場所にしている。

「お前はそうじゃないかも知れねぇが、俺は少しだけ……このまま勘違いにしたり、何もなかったことにしたりするのはーーー」

心臓の音がする。バルトロメオに押し付けた自分の額から、バルトロメオの緊張を感じ取る。緊張して、戸惑って、迷っている。


「ーーーもったいねぇ気がしてるんだ」


(間近にあるシーツがイカ臭い。自分も相手も不快にベタついている。背中はピリピリするし、噛み跡はじんじんする。多分相手は尻痛えと思ってるはずだ)

最悪な朝だった。
その最悪な朝に祈りを捧げ、ベラミーは相手の早鐘のような心音に、告白紛いへの答えを探した。




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