Show must go on!


ホテルラブ(キャべバル)
2014/04/21 01:48 (0)

昼飯食って、街をぶらついた。キャベンディッシュに連れられて公園のバラに囲まれた小道を歩かされたり、俺がゲーセンに連れて行って格ゲーを教えたり。よく分からないが、これをデートと言うらしい。
キャベンディッシュの様子がおかしくなったのは、日が傾いてきて、そろそろ夕飯食いたいなと思い始めた頃だった。
見るからに落ち着きがなくなり、目が泳いでいる。ペットボトルの水を蓋を開けずに飲もうとしたり、電柱にぶつかりそうになり謝ったり、いつもどこからともなく取り出すバラの花びらをしきりに食っていた。……花びら食うのはいつも通りだったか。
(なんだこいつ)
と鼻ほじりながら、両手両足を一緒に出して歩くキャベンディッシュの後ろを歩いていると、キャベンディッシュが急に立ち止まった。
そうして、素早く俺の左手を掴むと、目前の角を曲がり、ヒールを音高く鳴らし一目散に手近なビルに飛び込んだ。


それからもうすでに三十分は経った。


「部屋が狭すぎる」
「ベッドが小さい」
「掃除が行き届いていない」
「壁紙が美しくない」
部屋をぐるぐると歩き回り、キャベンディッシュは姑のような愚痴を言い続けている。
キャベンディッシュに手を引かれ飛び込んだラブホテルの部屋に入ってから三十分、ずっとこの調子だ。最初は俺も部屋の中をうろつき、空調をいじったり冷蔵庫を開けたりとしていたのだが、俺がちょっと動くたびに肩を揺らすキャベンディッシュがうざったく、今はダブルベッドの上であぐらをかき、腕組みして部屋を歩き回る顔だけはやたらいい男を眺めている。

(もう飽きた)

照明調節で遊ぶのも一通り(約五分)もやってしまったら、もうベッドの上で遊べるものなんて枕元の備え付けのゴムくらいしかない。風船でも作ろうか?照明をブラックライトに切り替えただけで「卑猥だ下品だ」と騒がれたので、そんなことすればどんな反応されるだろうか。

「うし」

この状態を打破すべく、俺は気合を入れてベッドに立ち上がった。コートを脱ぎ、ズボンも下ろす。
キャベンディッシュがこちらを見て固まり、口を金魚のようにぱくつかせている。
俺はそれを無視し、ベッド横のドアを開け、風呂場に入った。浴槽にお湯を流し込み、アメニティを物色し、入浴剤を入れる。
「おい、キャベツ。見るべ!すけべいす!」
風呂場にあったイスを持ってドアから顔を出す。
「な、なな、バカ!そんなもの触るんじゃない!」
まだ部屋の真ん中で固まっていたキャベンディッシュは、顔を真っ赤にして、早くしまえと犬でも追い払うように手を振る。
「ははははは」
イスを置き、パンツを脱いで風呂のドアからベッドに放り投げる。また「行儀が悪い!」と叱咤が飛んだ。まだほとんど湯は溜まっていなかったが、体をつければヘソ辺りまで嵩が増した。
「お」
正面の壁にはテレビがついていた。テレビ横の電源をつければ、夕方のニュースが始まる。チャンネルを回せば、未来から来た青いタヌキのような猫型ロボットがネズミに追われていたので、それを見ることにした。
「おお」
チャンネル以外にもいくつかボタンが並んでいたので適当に押すと、風呂場の電気が落ち、浴槽の中が様々な色に光だす。ジャグジーもついており、気泡が光にあたりキラキラと輝いている。
「キャベ!すごいべ!風呂にテレビとジャグジーついてる!風呂の中はキラキラだべ」
浴槽の中で伸びをする。アワアワでシュワシュワで気持ちがいい。
「俺、もうここに住み着くべ」
風呂場の外に声をかけると、風呂のドアから胡乱な顔をキャベンディッシュがぞかせた。
「バカ。そんなの僕の家の風呂にもある。しかもこんな犬小屋サイズの風呂よりよっぽど広い。住むなら僕の家にしろ」
俺は呆れた顔をキャベンディッシュに向けた。そんなプロポーズまがいのことはさらりと言えるのに、今どきなら中坊でも済ませてるような経験を前に、ガチガチに緊張して、緊張を誤魔化すように小言を続けて落ち着きなく部屋を歩き回るしかできないのか。
「……お前も入るか?」
ため息の代わりにそう言うと、キャベンディッシュはあからさまに凍りつく。
「ば、ばばば、ばかか君は!そんなは、はれんちなこと……!」
「何言ってるべ。もっとはれんちなことしにここに来たんだっぺ?」
「ーーー!」
キャベンディッシュは息を詰め、動揺を顔に貼り付かせる。だが、意を決したように風呂場に足を踏み入れた。ーーー服を着たまま。

「……お前、服着たまま風呂入るつもりか」
「そんなわけないだろ」

キャベンディッシュは浴槽の淵に腰掛けた。キャベンディッシュのほっそりした指が蛇口をひねって湯を止める。湯は、もう俺の胸元まで来ていた。
水音がやむと、猫型ロボの声がよく聴こえるようになった。
シャツを捲り上げた腕が、色とりどりに輝く湯舟につかる。星でも拾うように、指さきで湯をなぞる。

「……すまない、意見も聞かず連れて来て」

珍しくしおらしい声だった。
「……別に、結果はどっちにしろこうなってたべ」
キャベンディッシュは目を見張り、すぐに緩め、小さく頷いた。察しがいいのは助かる。
キャベンディッシュの手を取り、頬に当てた。温もった手は心地よかった。

「終わったら、風呂、一緒入るべ」

またカチリと音をたて、キャベンディッシュが固まった。唇が何か返そうと震える。

『どこでもドア〜』

開いた唇が何かを音にする前に、テレビの中の猫型ロボが間の抜けた声をあげた。泣いていた眼鏡の少年は、涙をぬぐい目を輝かせている。
「ふ」
顔の右半分だけを歪め、キャベンディッシュが吹っ切れたように苦笑した。細められた目、右の口端だけ緩く持ち上がった唇。今まで見た中で文句なしに一番かっこいい顔だった。


「バルトロメオーーー抱いてもいいか?」


もう、どうにでもしてくれ。
そう思うくらい。



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