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キスしてよ(ベラバル)
2014/04/13 20:42 (0)

窓際まで引きずって来た一人掛けのソファにあぐらをかき、肘置きに肘をつき、「無視してます」とでかでかと頬に書かれたような顔でベラミーはバルトロメオの言葉を無視した。

「ごめんって言ってるべ」

ソファーの背後をそわそわと歩き回っていたバルトロメオはベラミーの不貞腐れた横顔を覗き込んだ。
バルトロメオの申し訳なさげな視線の先は、丸められたティッシュが詰められたベラミーの鼻に向かっていた。ティッシュの鼻の穴に近い部分は、鮮やかな赤色に染まっている。
「なぁ、ごめんって」
反対側に回り、またベラミーを横から覗き込む。バルトロメオの目の高さには、顰められた眉根のしわがある。
その頑なな眉間のしわを見て、バルトロメオはため息をついた。
ケンカした理由は些細なことだった。俺のビールが一本減っただとか、靴下を片方なくしただとか、ドフラミンゴが載っている新聞を鍋敷きにしただとか、その程度のことだった。ただ、口論の末、互いの襟首を掴みあっていたとき、断じてわざとではなく、バルトロメオの肘鉄がベラミーの鼻っ柱に命中してしまったのだ。
目を丸くし、鼻を抑えるベラミーの手の隙間から、赤いものが垂れた。床を見下ろすと、顎を伝って垂れた血が数滴広がっていた。慌てて手のひらを見ると、べっとりと広がる血があった。ベラミーは急いでティッシュを引き出し、顔に押し当て、鼻に丸めたティッシュを詰め込んだ。
ベラミーが顔と手のひらを荒く拭い、何か言いたげに背後のバルトロメオを睨み、何も言えないバルトロメオに鼻を鳴らして、ソファーを引きずって窓際に座り込むその十数分の間、バルトロメオは居所がなさげにベラミーの背中を見ることしかできなかった。
それから五分はたっただろうか。無言のひどく長い五分を、ベラミーの背後でそわそわと歩き回り、ベラミーの様子を伺っていたバルトロメオは、ようやく「ごめんなさい」とベラミーの不貞腐れた横顔に声をかけた。

「ごめんって言ってるべ。なぁなぁ、ベラミー。ごめん。なぁベーラーミー」

一度謝ってしまったら、それまで言い出せなかったのが嘘のようにさらさらと言葉が出てきた。その分軽くなったような気もするが。

「ごめんなさい。なぁベラミー。なぁってば!ごめんって」
「……」

ベラミーは半分意地のようにむっつりとした顔を崩さず、頑なにバルトロメオを無視し続ける。
「おーい、聴こえてるか?」
無視され続け、さすがにバルトロメオも機嫌が傾いたのか、なんとか反応させようと、ちょっかいを掛け始めた。
頬を指で突く。耳を摘まむ。髪を引っ張る。頬を伸ばす。頭を撫でる。顎をさする。しまいにはソファーの背にもたれかかり、ベラミーの肩に手を掛け、頭の上に顎を置いてぐりぐりと頭頂部を刺激しだした。
ベラミーは、窓ガラスに映る自分たちの間抜けな姿を見て、とうとう吹き出した。
「ぷっ!ぷはは!」
その声に、バルトロメオの傾きかけていた機嫌が一気に直立する。
「わらった!」
「ははは……笑ってねぇよ!」
「笑ってるべ!機嫌なおったっぺ?」
「なおってねぇよ」
「でも笑ってるべ」
バルトロメオは、嬉しげに後ろからベラミーに抱きつく。ベラミーを肩越しに覗き込み、いたずらっ子のような顔で笑う。
「仲直りな!」
そう言ってバルトロメオはべらミーの頬に唇を押し付けた。錆びついた味がまだ残る頬をよく見ると、荒く拭った血が掠れて頬に薄く伸びて乾いていた。
バルトロメオは血のあとにそって舌を這わせた。
「おい、やめろよ」
まだ小さく笑いながら、肘掛に肘をついた左手で目元をおさえ、諦めと呆れと笑いの混じった効力の薄い制止をする。
バルトロメオは犬のように頬の血のあとを舌で追い、顎の乾いた血も舌で溶かし、鼻に詰められたティッシュも口にくわえて抜き取り、床に放った。血のにおいの濃い鼻下から、鼻先まで何度も舌で行き来していると、ベラミーがまたくつくつと肩を震わせて笑い出した。
「お前は犬かよ」
目元を抑えていた左手を外すと、右手で犬のように舌を出したバルトロメオの顎を掴んだ。
「仲直りか?」
バルトロメオは顎を掴まれたまま、悪知恵だけ蓄えたガキの顔でベラミーの目を覗く。
「仲直りな」
ベラミーは苦笑し、自分の肩に遠慮なく体重をかけているバルトロメオに肩越しのキスをした。

「うぇ、まずい」
「お前のだべ」

額をくっつけ、間近で目を合わせたベラミーとバルトロメオは、鉄の味がする舌を出し合って笑った。




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