Show must go on!


Drinker(ベラバル)
2014/04/04 00:31 (0)

粘つく口内に水を流し込みたかった。

「み、みず……」

口を開いてみると、さらに口内は不快感を増した。もう喋るのはやめようと思った。

「ほら」

頬に、冷たいけど、冷たすぎるわけでもない清涼な気配が押し付けられた。重みのあるつるりとした感触は、ペットボトルの水のようだった。
俺は常温の、ちょうどいい温度が心地よく、ペットボトルを頬に押し付けたまま抱きしめた。自分の体温で温まる不快な布団の中で、唯一のオアシスとなる。
酒は好きだ。飲み会の席も好きだ。回るアルコールもふわつく脳内も好きだが、次の日のこの不快感だけはいただけない。
(みず……)
もう口を開けるのは嫌だったので、酒で粘つく口内をしっかりと閉じたまま、ついでに朝の日差しに痛む目もしっかりと閉じたまま、ペットボトルの蓋を手探りで開けようと布団の中でもぞつく。
「貸せ」
布団の中のオアシスが取り上げられた。俺は親にでも見放されたような情けない気分になり、俺はもうダメだ、と布団の中でいじける。酒をしこたま飲んだ次の日は、女の生理前のように気分が気まぐれに上げ下げするので困る。
ぺきゃ、と蓋の空く音がした。「ふふぉ〜、やっと水飲めるぜ!」と落ちていた気分がすぐ上昇する。
頬を柔らかく温いものに包まれる。多分手だ。いま自分の体温でさえ疎ましいのに、他人の手は言わずもがな、だ。ぐぐっと眉間にシワを寄せるが、気づいていないのか気にもしていないのか、手は離されなかった。
口に、冷えた柔らかなものが押し付けられる。頬を抑える手にわずかに開かれされた口の隙間から、少しぬるくなった水が流れ込んできた。うまい。
頬と口の感触が離れる。と思ったらまた触れてきて、また水を流し込まれた。うまい。
それを何度か繰り返すと、口の中の粘つきも喉の渇きもすっきりし、満足げに唇を舐めた。
俺の満足げな表情に気づいたのか、水はそれ以上やっては来ず、ペットボトルの蓋の閉められる音がした。

「ところでよぉ」

ようやく目を開けると、まぁ分かってはいたが、目にうるさい緑髪の逆立った、生意気そうな人を食ったような表情の男がベッドの淵に腰掛け、こちらを肩越しに見下ろしていた。
「いまキスしたか」
日差しにまだ慣れない目を細める。
「してないべ」
表情一つ変えず、バルトロメオは嘘をつく。こいつは、どうでもいい嘘をすぐにつく。嘘だとすぐわかる、嘘でも本当でも支障ない嘘をいくつもつく。
「しただろ」
「それより、休みなら遊ぼうぜ」
フリスビーしよう。公園で。俺が投げるからお前走るべ。ーーーってそれどんな罰ゲームだよ、ってことをさらりと言う。
「するかよバーカ」
寝返りをうち、布団をかぶる。温い布団がやはり気持ち悪い。
「意地悪言うなよばーか」
バルトロメオは布団を無理やりめくり、体を布団にねじ込んできた。かさばるコートがさらに不快で不愉快だった。
「コート脱げよ、イラつく」
「下裸だべ」
「裸コート…ど変態かよ死ね」
「下は履いてる」
布団の中でもぞもぞと動き回られ、機嫌が傾いて直角になる。死ね。
ぼそりという音は、多分脱いだコートがベッドの外に投げ出された音だ。俺の羽織っただけの上着の向こうに熱源がある。控えめに言っても不快だ。
「起きたらフリスビーな」
バルトロメオが首裏のすぐ下に額を押しつけて言う。無視していると、長い爪で耳たぶをつままれる。うん、と投げやりに返事を返してやると、「やったべ」と本当に喜んだ声が背中から聴こえた。嘘だけど。多分、玉子丼でも作ってやれば忘れるだろう。
耳をつまんでいた爪が、背中をなぞりだす。俺と違って眠くなくて、布団に潜ったはいいが暇なんだろう。背中に文字を書いて遊び出す。
【好き】【ちょうかっこいい】【サイコー】【好き】【ルフィ先輩】
……なんだそれ。
【めんま】【チャーシュー】【きくらげ】
なんだこいつ。ラーメン食べたいのか?
「めんま、チャーシュー、きくらげ」
書かれた言葉を読み上げると、「お」とバルトロメオが嬉しげな声を上げた。背中に指が走る。
【ちんちん】【わんわん】【にゃー】
わくわくと期待する気配が背中から感じる。
「……ちんちん」「わんわん」「にゃー」
何言わせるんだこいつ。小学生かよ。
また背中に文字が書かれる。
【バルトロメオ】【好き】
「バルトロメオ」「好き」
「俺もだべ!」
お前が言わせたんだろ、と心の中でつっこむ。
【ルフィ先輩】【は】【サイコー】
「……」
背中からわくわくとした気配を感じる。黙っていると、はやく言えと言わんばかりに背中を爪で突かれる。
「バルトロメオ」「水」「飲みたい」
俺は書かれた文字を読み上げる調子で、わざとらしくそう言ってやった。
背中をつつく指が止まった。驚いた気配のあと、悩む気配を感じた。
俺はしめたと言わんばかりに布団を被り直し、丸くなる。なるほど、分かったぞ。こいつは押されると弱い。
俺は背後でうんうんと悩むバルトロメオを尻目に、俺は二度目の惰眠を貪ることにした。
起きたら、また言ってやろう。きっとそのときはまた粘つく口内に不快な思いをするだろうから。


(バルトロメオ)
(水)
(のみたい)


飲ませ方はお前に任せる。




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